古今亭志ん朝の「らくだ」、志ん生の血を感じさせる
NEWSポストセブン / 2019年11月9日 16時0分
音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、1969年から1974年まで開かれていた、若き日の春風亭柳朝が古今亭志ん朝の演目を決めていた「二朝会」のCDから、志ん朝のネタおろしでそのままお蔵入りになった噺など、貴重な若々しい高座についてお届けする。
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1969年から1974年まで年6回開かれていた「春風亭柳朝 古今亭志ん朝の会」(通称「二朝会」)での志ん朝の高座音源を集めたCD16枚組「古今亭志ん朝 二朝会」が河出書房新社より発売された。
志ん朝の「二朝会」の演目は柳朝が決めていた。そのせいか、ネタおろしでそのままお蔵入り、という演目が幾つもある。その中から今回『蛙茶番』『禁酒番屋』『三人無筆』『疝気の虫』『紺屋高尾』『ちきり伊勢屋 上』が商品化された。
柳朝の十八番『蛙茶番』はいわゆる「ネタの交換」で、柳朝の型に自分の個性を加えて軽快に演じ、とても面白い。演らなくなったのは「自分にエロは似合わない」と思ったからだろうか。『禁酒番屋』も悪くないが、やはり「下ネタはやめておこう」ということかもしれない。
志ん朝の『三人無筆』はバカバカしくて楽しい。今あまり演じ手がいない噺だが、志ん朝が演り続けていたら違っていた気がする。
志ん生十八番『疝気の虫』を一度でやめたのは「親父のようには演れない」と思ったからだという。独特な品の良さが漂う『疝気の虫』で、談志の破天荒な『疝気の虫』と好対照。子供時代の「虫の思い出」を語ったマクラはファン必聴だ。
志ん朝は志ん生の『幾代餅』を継承し、磨き上げた。その『幾代餅』と同工異曲の『紺屋高尾』も一度だけ演ったのは「二朝会」ならではの椿事。音源を聴くと圓生に近い型だがそのままではなく、さすがに聴き応えはあるが、一度限りにしたのは混乱を避ける意味で正解だろう。
人情噺の長編『ちきり伊勢屋』は柳朝とのリレー企画。先代正蔵の型を持ち前の表現力で磨き上げた見事な「上」で、もしも志ん朝が「下」も手掛けて演り続けてくれたら……と思わずにはいられない名演だ。
この商品の目玉は『らくだ』が収録されていること。ごく若い頃に志ん朝が『らくだ』を2回ほど演じた記録があり、この「二朝会」での口演は蔵出し。そしてこれ以降、志ん朝は『らくだ』を演じていない。唯一残っている音源の初商品化だ。
これが、実に素晴らしい。志ん生の『らくだ』を見事に膨らませた、明るく楽しい『らくだ』なのである。屑屋に悲壮感がない。僕はこの、笑いの多い『らくだ』を聴いて「志ん生の血」を感じた。なぜ演り続けなかったのか。不思議だ。
もちろんレアな演目以外に志ん朝十八番の数々も収録、中でも『お直し』は貴重なネタおろし音源。31歳から36歳に掛けての若々しい高座を堪能できる、志ん朝ファン必携のアイテムだ。
※週刊ポスト2019年11月8・15日号
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