【岩瀬達哉氏書評】性犯罪を減らすには刑罰に加えて治療を

NEWSポストセブン / 2019年11月29日 16時0分

『痴漢外来 ──性犯罪と闘う科学』原田隆之・著

【書評】『痴漢外来 ──性犯罪と闘う科学』/原田隆之・著/ちくま新書/880円+税
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 プロゴルファーのタイガー・ウッズはセックス依存症からの完全復活を果たしたが、この性的依存症とは、どれほどキツいものなのか。著者のもとに通う患者によれば、それは「脳があたかも、セックスに乗っ取られてでもいたかのよう」だという。

 このような「性的問題行動」に悩み、診療に訪れる外来患者のダントツ一位は「痴漢」で41.6%。ついで盗撮やのぞき、過度な風俗通いや浮気があり、露出、下着窃盗、小児性愛、強姦が続く。風俗通いは犯罪ではないが、これがやめられなくなると一晩に数軒のソープランドをハシゴし、借金から経済的破綻へと至ることになる。

 興奮とスリルで「脳に心臓があるかのような感覚」になるのは薬物やアルコール依存症と似ているものの、訪れる患者たちの多くが「高い学歴を有し、家庭や仕事を持っている人たち」というのが、性的依存症の特徴だ(身近な隣人の中にも、その病に苦しむ人がいるのかもしれない)。

 満員電車での痴漢は「ほぼわが国特有の犯罪と言っても過言ではない」ため、海外の論文では「日本にはchikanという犯罪があり、年間数千人が逮捕されている」と驚かれている。

 この犯罪を減らすには、「刑罰に加えて、治療」が欠かせない。何度逮捕されても、あるいは刑務所に収監されたとしても、やめたくてもやめられない病だからだ。彼らの、あふれ出る欲望の奥にあるのは、「女性の身体を触った。それでも、相手からは何のリアクションもなかった。これは触っていいという暗黙の合意」という「認知のゆがみ」である。

 痴漢への衝動に突き動かされそうになった時、患者は「何もしないで、ただその気持ちを眺めて受け止める」訓練を受ける。それを繰り返すことで、心を「Beingモード(そのままでいる)に切り替える」ことができるようになるという。依存症患者の症例と克服の物語は、自らの心の深淵をものぞき見せてくれるのかもしれない。

※週刊ポスト2019年12月6日号

痴漢外来 (ちくま新書)

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