【平山周吉氏書評】「殿方厳禁」の世界を覗き見る面白さ

NEWSポストセブン / 2020年3月10日 7時0分

『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』尾崎俊介・著

【書評】『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』/尾崎俊介・著/平凡社新書/880円+税
【評者】平山周吉(雑文家)

「女人禁制」ならぬ「殿方厳禁」の世界を覗き見る面白さに溢れかえった本である。『ハーレクイン・ロマンス』は、その手の恋愛とも、その手の甘い小説とも、生涯まったく縁のない凡夫が読んでも興味津々の本なのであった。

 著者の尾崎俊介は日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しているアメリカ文学者で、その軽妙洒脱な筆で、未知の(さして興味の湧かない)ジャンルを案内されると、すっかりその世界にハマって、「通」になった気分である。

 副題に「恋愛小説から読むアメリカ」とあるが、本書はその成分である「恋愛」「小説」「アメリカ」をハーレクインを介して、あざやかに解析した文化史である。イギリス→カナダ→アメリカと国境を越えて来たロマンス小説が、マーケティングの威力により、「洗剤」のように売れていく。その時、アメリカのペーパーバック市場が極端な男性向けだったことも有利に働いた。

 ヒロインに感情移入しながら読む女性読者は、小説の中で完璧なヒーローに出会い、障害を乗りこえて恋に落ち、結婚というハッピーエンドを迎える。このお約束の展開が読者を病みつきにさせる。ヒロインは「ある程度」かわいいが、かわい過ぎてもいけない。その匙加減。性的魅力を発散するライバル女よりも奥手である。

「ヒロインの性的魅力を発掘することは、ヒーローに託された仕事であり、またヒーローにとっての「役得」なのだ」

 一九六〇年代では、ヒロインは「職業婦人」で、ほぼ「看護師」であった。日本の官能ノベルでの「ナース」とは違い、彼女たちは正義感があって、気が強い。そのヒロインが精神的な勝利と世俗的な勝利を独り占めしていくのだ。

 時代による性的コードの変遷、女性たちの「読書伝統」、フェミニズムとの対決から相思相愛へなど、話題は次から次へと現われる。入口は狭いが、文学史、小説商品史、書物文化史、恋愛社会学と、どの方面からも「アメリカ」という身体を眺められる拡がりがある。

※週刊ポスト2020年3月20日号

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