敏腕映画プロデューサーが語る映画の脚本の基本ルールとは?

NEWSポストセブン / 2012年11月29日 16時0分

【著者に訊け】川村元気氏・著/『世界から猫が消えたなら』/マガジンハウス/1470円

 あえて想像してみる。〈世界から、もし猫が突然消えたとしたら。この世界はどう変化し、僕の人生はどう変わるのだろう〉……。『世界から猫が消えたなら』、通称“世界猫”の著者、川村元気氏(33)は言う。

「または電話、映画、時計など、ある人にはないならないで済むものが、ある人にはそれなしで生きていけないくらい大切なことって、結構あると思うんですよ。これはそういう自分にとっての“猫”を見つける話です。何かの不在や喪失を通じて価値や意味を考える考え方が、今の僕には一番しっくりくるんです」

 それは、悪魔のささやきだった。

〈この世界からひとつだけ何かを消す。その代わりにあなたは1日の命を得ることができるんです〉

 脳腫瘍で明日をも知れぬ命だと宣告された〈僕〉は取引に応じることにした。アロハシャツに短パン姿で〈アタシ、悪魔っす!〉とかる~いノリで話す、僕に瓜二つな悪魔との取引に。自分には何が本当に必要で、人生に何の意味があるのか――。そう。想像するにも、きっかけが要るのだ。

『電車男』『モテキ』『告白』など話題作を続々手がける人気映画プロデューサーが、初小説を書いたきっかけも実は映画。『悪人』で原作・脚本を担当した芥川賞作家、吉田修一氏と作業を進める中で、小説と映画にできることの違いに興味を持ったことが大きいという。

「例えば映画では妻夫木聡さん演じる主人公の祐一が“苛立っている”と書いちゃいけないんですね。祐一が顔を顰めたとか黙るとか、行為を書くのが映画の脚本で、苛立っている、は映らないからダメなんです。一方“世界から猫が消えた”と書けば、たった一行で猫のいない世界を表現できるのが小説で、その不在や不足を、読者との共犯関係が埋めていくのが面白い。

 映画では泣く泣くあるシーンを切ると別のシーンが俄然輝いたり、その前後のシーンを“ないのにある”と観客が感じてくれることがある。それこそ今回のテーマ〈何かを得るためには、何かを失わなくてはならない〉のだと日々実感するところ。本書でも著者川村の文章をプロデューサー川村が編集していて、言葉を尽くして描き切るのが小説家の小説だとすれば、余白や空白に自覚的なのが映画人の小説かもしれません」

 特に本作はテーマがテーマだけに匿名性や寓話性に留意したといい、名前があるのは僕が母親から託された愛猫〈キャベツ〉と先代の〈レタス〉だけ。レタスが死んだ後、母が死に、残されたキャベツと暮らす郵便配達員で30歳の僕までが今まさに死の宣告を受ける。

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