『水どう』藤やん「大泉洋との関係」「番組への共感」を語る

NEWSポストセブン / 2012年12月19日 7時0分

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「人は濃密な人間関係を欲している」と水どうDの藤村忠寿氏

 北海道発のローカルバラエティー番組、しかもレギュラー放送終了から10年も経つのに、いまなお番組関連グッズやDVDが売れに売れ、全国区の支持を得ている『水曜どうでしょう』。

 人気の秘密は、国内外問わず旅の途中で行われる様々な企画の面白さもさることながら、番組ディレクター陣が出演者の鈴井貴之・大泉洋というタレントを相手に、ときには腹を割って繰り広げる男同士の「友情」や「人間模様」が垣間見られることにある。

 職場でもプライベートでも対人関係が希薄になりつつあるいま――。『水どう』の生みの親である“藤やん”こと藤村忠寿氏(現・北海道テレビ放送エグゼクティブディレクター)が、人付き合いの極意を伝授する。

 * * *
 仕事で人に会うとき、たとえば相手方が4人いて、そのうちの2人とは顔見知りなんだけど、あとの2人は初対面ということがあります。その場合、顔見知りの人が「あ、ご紹介します。うちの新人で……」と言ってくれればいいんだけど、最近は、かしこまった紹介をすることなく、流れでなんとなーく話に突入してしまって、初めて会う2人はニコニコとその話を聞いてて、飲み会まで終わってしまった最後の最後に「ご挨拶がすっかり遅れてしまってすいません。○○と申します」なんつって、ようやく名刺交換するみたいな場面に出くわしたりします。

 あと、大学生なんかの若い世代の人たちが、初めて顔を合わすのにもかかわらず、いきなり「へぇー、そっちはそうなんだぁ」みたいに親しく会話を始めたりする場面もよく目にします。我々が若い頃には絶対に出来なかった実にフレンドリーな芸当です。

 これって、最近のコミュニケーションの取り方というか、人間関係の作り方だと思うんです。「あなたは誰ですか?」と、相手の素性を聞くことなく、ぼんやりとした形でコミュニケーションを取り始める。言うなれば「ふわーっとしたコミュニティー形成」というか、なるべく相手に踏み込まない。これはやはり「相手の個人情報にいきなり踏み入るのはよくない」という最近の社会の風潮から来るものだと思うんですよ。

 こういう「ふわーっとしたコミュニティー形成」は、ネットの世界では特に顕著で、これによって「知り合いの数」は昔よりも圧倒的に多いんだけど、「ふわーっとしてる」から、人間関係があまり濃密にはならない。だから、いざ人間関係が濃密になったときに、対処の仕方がわからず、些細なことで悩んでしまう人が多いような気がします。

『水曜どうでしょう』という番組は、タレントの大泉洋、鈴井貴之とディレクターである私と嬉野雅道の4人でやっています。男4人で世界中をあちこちロケで回ったりしてますから、関係はどうしても濃密になります。ケンカになることもしばしばです。そういう関係性を番組であからさまに出しているため、見ている人たちは「仲が良くてうらやましい」「楽しそう」と言います。でも、私たちの関係性は、単に「楽しい」というだけのものではありません。

 私たちの関係性は、たとえて言うなら「たまたま同じ船に乗って、大海に漕ぎ出してしまった乗組員」みたいなもんです。北海道のローカル局で人知れず番組を立ち上げて、小さな船を漕いでいたら、知らず知らずのうちに全国区という大きな海に出てしまった、という……。

 俳優として今や大人気の大泉洋は、この番組のことを「必要悪」と言います。もちろん誇張した表現ではありますが、「確かにその通り!」と私も思います。いくら売れようとも、『水曜どうでしょう』という船からは決して降りられないことを、彼は自覚しているわけです。

 私もディレクターとして、この番組だけではなく他にもやってみたいことがあります。でも、新しい船に乗り換えるということは、一方で、4人でこれまで漕いできた船を捨てることでもあります。

 嬉野さんは、いつだったか私にこう言いました。「おれらはね、お互いどんな嫌な思いをしても、どんな悔しい思いをしても、歯噛みしてでもこの船に乗り続けなきゃいけないんだよ。もう、それしかないんだよ」と。私はそれを聞いて、なんだか吹っ切れたような気がしました。「そうだな。自分にはこれしかないんだな」と。

 我々4人は、濃密な人間関係ではあるけれど、「親友」の関係ではありません。番組という「利害関係」で結ばれた4人だと思います。その利害関係を維持するためには、誰一人として船を漕ぐ力を緩めることができない、もう抜け出すことはできないという、十字架を背負った関係であると思うのです。でもその十字架を、もう重いとは思っていません。むしろ「自分は、これさえ背負っていけばいいのだ」と清々しい気持ちでさえあります。

 濃密な人間関係は、ある種の「縛り」のようなものを、お互いに背負わせることになります。その「縛り」は、時に耐え難いほどの苦痛を生み出すものではあるけれど、時に「これでいいんだ」と、すべてを軽くしてくれるような力を与えてくれるものだと私は思います。

「ふわーっとしたコミュニティー形成」は、個人に「縛り」を強要しません。だから、コミュニティーを抜けても誰も困ることはありません。また新たなコミュニティーを見つけて、ふわーっと入ればいいだけのことです。

 確かにラクではあるけれど、人間は決してそれだけでは生きていけない、どこかで濃密な人間関係を欲している、それがわかっているから、『水曜どうでしょう』という番組の「歯噛みしながらも同じ船に乗り続けている人たち」に、強い共感を覚えてしまうのだと思います。

【藤村忠寿/ふじむら・ただひさ】
1965年愛知県出身。90年に北海道テレビ放送(HTB)に入社後、編成業務やCM営業に携わり、1995年に本社制作部に異動。1996年チーフディレクターとして「水曜どうでしょう」を立ち上げ、出演者の鈴井貴之、大泉洋らとともに自身もナレーターとして出演。同番組は2002年にレギュラー放送を終了したが、その後も道内のみならず全国的に絶大な支持を集め、番組DVDシリーズは累計200万枚以上を売る大ヒット更新中。



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