柳家権太楼 師匠小さんの型を練り上げたダイナミックな名演

NEWSポストセブン / 2020年11月24日 7時5分

柳家権太楼の人情噺『子別れ』に心を打たれる(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、柳家権太楼が通しで演じた人情噺の大ネタ『子別れ』についてお届けする。

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 10月10日の「大手町落語会」で柳家権太楼が演じた『子別れ』(通し)が素晴らしかった。

 権太楼の『子別れ』は五代目小さん直伝の型だ。僕は2007年に権太楼が『子別れ』を「上・中」と「下」に分けて演じたのを観たが、その時、権太楼はマクラで「自分にとって『子別れ』は大切な噺です」と、小さんとのエピソードを語った。『子別れ』を稽古してくれと申し出た権太楼に小さんは「紀伊國屋ホールで演るから前で観ろ」と言った。そして当日、終演後に権太楼を伴って寿司屋へ行った小さんは「あの亀吉は俺なんだ」と語ったのだという。

 今回の権太楼の口演は「上」から一気に「下」まで演じたもの。弔いで酔い潰れた大工の熊が吉原へ向かう場面を描き、強飯の件は割愛して「品川で馴染みだった女が吉原に鞍替えしていたので三日居続けをした」と地で語る。帰宅した熊が女房と喧嘩になって妻子を叩き出すのが「中」で、ここをみっちり演じるのが小さん演出の特徴だが、この口演では「それから熊は吉原に通い詰め、夫婦喧嘩の絶え間がない」と地で説明してから別れの場面を短く演じ、吉原の女との顛末を挟んで「下」へ。

 別れて3年後。番頭と木場へ向かう熊が偶然出会った亀吉は「両親が揃っているのが一番幸せなんだって先生が言ってたんだ。オイラ親孝行するから、また一緒に暮らそうよ」と言う。小さんにもあった台詞だが、権太楼の演じる亀吉は何ともいじらしく、思わず熊は涙する。

 母には内緒だと言い聞かされて亀吉が帰宅すると、小遣いにもらった50銭を母に見咎められた。約束を必死に守り通そうとする亀吉だが、盗んだ金だと思った母が泣きながら玄翁を持ち出して「これはおとっつぁんが叱るんだ!」と責めると、亀吉は号泣しながらすべてを打ち明け「明日おとっつぁんに会いたい……行っていいだろ!?」と訴える。迫真の演技が胸を打つ、出色の場面だ。

 翌日、鰻屋の二階では番頭が同席し、やって来た母に「私がここにいるのは、このあと亀ちゃんに連れていってもらってお前さんに会おうと思ったからなんだ」と言う。番頭が重要な役割を果たすこの演出は小さんオリジナル。第三者が間に入って仲を取り持つのは自然な流れだ。

「亀ちゃんのためにもう一度」と言う番頭に女房は「私も正直辛かった。嬉しいお話です」と涙する。もらい泣きした番頭が「子は夫婦の鎹だねえ……」と呟くと亀吉が「鎹? それで玄翁でぶつと言ったんだ」。

 小さんの型を独自に練り上げ、ダイナミックな演技で聴き手を引き込む聴き応え満点の名演だった。

【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。

※週刊ポスト2020年11月27日・12月4日号

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