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芸歴60年の林家木久扇 あらゆる意味で「壊す人」が壊してきたもの

NEWSポストセブン / 2021年4月4日 11時5分

芸能生活60周年、傘寿を超えてもますます盛んな林家木久扇に密着

「ちょっと、扇子出して」──。インタビューが始まるなり、事務所のスタッフにそう声をかけた。

「扇子を持ってないと、しゃべるときにどうも調子がねぇ。もう、50年以上やっていますから」

 林家木久扇。人気番組『笑点』で黄色い着物を着ている人。そう、「キクちゃん」だ。サラリーマンや漫画家を経て、23歳で落語家になり、83歳になった。目下、芸能生活60周年記念公演を全国10か所以上で開催中だ。

「お調べになったらわかるけど、落語家は、ほとんど70代で死んじゃっていて、80代はそういないんです。ま、僕も百歳まではいかないと思うんですけど」

 32歳のときから人気番組『笑点』に出演し続け、立川談志や桂歌丸ら5人の司会者を見送った。

「談志さんは『笑点』を作り、落語家の地位を上げてくれました。歌丸さんは、最後、壮絶でしたねえ……。鼻に酸素チューブをつけながら高座に上がっていた。あの姿で怪談話をやられても、ご本人の方がよっぽど怖いんですから」

 落語には「守る人」「壊す人」「創る人」の3タイプがいると言われるが、木久扇は、あらゆる意味で「壊す人」だった。

 まず、落語。通常、真打になるには、100以上のネタを覚えなければならないと言われている。しかし、35歳で真打になったとき、木久扇は30も覚えていなかったという。

「だって、聞いていておもしろくないんだもの。実際に周りにいる人たちの方が、はるかにおもしろかった。僕は実録が好きなんです。話芸はね、つまらなかったらいけないと思っているんですよ」

 そうして出来上がったのが師匠の林家彦六らをおもしろおかしく語る『明るい選挙』や、片岡千恵蔵など歴代の名優たちが登場する『昭和芸能史』などのオリジナルの実録落語だ。いずれもモノマネ満載の木久扇ワールド。

 先日、明治座で開催された60周年記念公演初日の夜の部では、人気漫才師ナイツが爆笑をかっさらった後に登場。『明るい選挙』を熱演し、その笑いをさらに超えてきた。木久扇にしかできない至高の芸だ。

 もう一つ、壊したものがある。それは落語家の経済観念だ。好きな言葉が「入金」だと語るように、商売気を隠そうとしない。一時期は「落語よりラーメン屋の方がおもしろい」と『木久蔵ラーメン』店の経営に夢中になり、全国に27店舗を持つまでになった。

「うちの師匠は大成しても家賃1万円の長屋に住んでいた。芸人の世界は、清貧をよしとする文化がある。でもね、貧乏って人間の体によくないと思うんです」

 60周年記念公演の締めのひと言が振るっていた。

「65周年は、もうすぐそこです。私、また儲けたいと思います」

 あっぱれ、である。

【プロフィール】
林家木久扇(はやしや・きくおう)/1937年、東京・日本橋生まれ。1960年に3代目桂三木助に入門。翌年、8代目林家正蔵門下に移り、林家木久蔵となる。1973年に真打に昇進し、2007年に木久扇を襲名。『笑点』(日本テレビ系)には1969年からレギュラー出演。放送55年目を迎える人気番組を、現役最年長メンバーとして牽引してきた。3月16~17日に東京・明治座で「芸能生活60周年記念公演」を行なった。

取材・文/中村計、撮影/惠原祐二

※週刊ポスト2021年4月9日号

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