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大阪のほとんどが水の底だったと気づかせる中沢新一の書籍

NEWSポストセブン / 2013年1月8日 7時0分

【書評】『大阪アースダイバー』/中沢新一/講談社/1995円

【評者】柳亜紀(弁護士)

 かつて大阪のほとんどが水の底だったとは! この地で生まれ育った私だが、本書を読むまでまったく知らなかった。5000年以上前に人が住めたのは奈良県境にある生駒山と、幅1km余りの細長い島のみ。淀川と大和川が流し込む土砂が今日の大阪平野をつくりあげた。

 そのことが、現代社会や文化、人々の心理にまで深いレベルで影響をあたえ続けているという。このように太古の時代にさかのぼり、人類学、哲学、宗教学などにまたがる幅広い知見と観察で土地の記憶をたぐる手法を、著者は“アースダイバー”と名付けた。

 水底から浮かび上がり、発達してきた大阪の成り立ちは、地縁・血縁でがんじがらめになった“ムラ”とは違う。海民が砂洲上で始めた商売の地・ナニワがその象徴だ。モノのやり取りが、売り買いでなく贈与だった古代世界からみれば、モノの流通で利益を得る商人は異質な存在だ。大阪商人といえば、ゼニ勘定だけに長けた“えげつない”イメージがあるが、むしろ正反対。地縁も血縁もないからこそ信用で取引する、合理的な“商人性”を発達させたのだ。

 また“こてこての(こってりした)大阪人=商人”というイメージも大違い。取引を「執拗に、ねばり強く、繰り返すから」で、しつこいように感じても商談が成立すれば「ご破算に願いあげる(リセットする)」。むしろ“あっさり”した性格だというのには、思わず膝を打った。これらの現代に通じる大阪商人の性格が、太古の時代から形作られているとの論が、本書の読みどころだ。

 そういえば、弁護士の世界でもこの“商人性”は生きている。ようやく裁判上で和解がまとまったという段になっても、調書をつくるために裁判官が退席した隙に、「和解金額、もうあと10万円安くなりませんか?」と粘ってくるのは、たいてい大阪の弁護士。辟易させられることも多いが、話がまとまればもう「ご破算」。相手と笑顔で挨拶できる独特の呼吸があるのだ。

 古代には黄昏の地とされていた・ミナミ、被差別部落やコリア世界の問題に至るまで、著者は自由な思考で大阪の深層をあぶり出す。自転車で走り回ったというフィールドワークは丁寧で、大阪に対する愛情がにじむ。

 お笑いとB級グルメだけが大阪じゃない。本書を手に、大阪で“アースダイブ”してみてはいかがだろうか。

※女性セブン2013年1月24日号



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