「伝説の延長17回」実況アナ 1度だけ録画を見直していた

NEWSポストセブン / 2013年1月8日 7時0分

 NHKのスポーツアナウンサー、石川洋さんが6日、療養中の病院で亡くなった。53歳だった。

 2004年のアテネ五輪では北島康介選手のインタビューで「チョー気持ちいい!」の名言を引き出したことで知られるが、高校野球では、1998年、あの伝説の横浜対PL学園戦延長17回の実況を担当したことでも知られている。生前、その実況にまつわるインタビューをした「横浜vs.PL」(朝日文庫)の著者のひとり、フリーライターの神田憲行氏が石川さんの取材を振り返る。

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 実況を担当した当時、石川さんはNHK広島放送局のアナウンサーで37、38歳だった。NHKの中継担当は先に「大会○日目第1試合」という枠だけが決まり、対戦相手はわからない。準々決勝の組み合わせ抽選で横浜高校対PL学園の実況担当が決まり、石川さんは顔面蒼白になったという。

石川:準々決勝の組み合わせが決まる前に、「横浜とPLが対戦するカードになったら、喋れるアナウンサーはいないな」と言っていたんです。そこまでのお互いの戦い方をみたら両チームとも隙がないし、それがさばけるアナウンサーはいないなあ、と。そしたら僕が(実況担当に)当たって、死にそうでしたね。どうしようかと思いました。でもある人から、「そういういいカードを引っ張ってくるのも実力のうちだよ」といわれて、すごく嬉しかった。この組み合わせになった瞬間から、いいカードになるのはわかっていいましたから。

 試合はPLが先制して横浜が追いかける白熱した展開になった。終わってみれば延長17回、3時間半の試合だった。

石川:終わったら汗びっしょりで、暑さと緊張でそれまで気づかなかった。(中継中にアルバイトさんが)冷たいおしぼりを随時もってきてくれるんですけれど、それが中継デスクのいろんなところに散乱していた。フロアディレクターの指示も覚えていません。放心状態だったかもしれない。

 試合終了直後、石川さんの中継で今でも私が覚えている言葉がある。勝った横浜高校の小山良男捕手が泣き、負けたPL学園の上重聡投手の笑顔を捉えて、こう言ったのだ。

《勝って泣く顔があります。負けて笑う顔があります》

 大げさな表現を使うのでなく、事実を述べるだけで、両校のこの試合に賭ける想いを凝縮した。達意の実況だったと思う。

石川:見ている人は画面しか見てないので、その画面から読み取れるものはないかなと考えました。こういうとき、準備していた言葉ではダメなんです。自分の中から自然に出た言葉だから、印象に残ったんじゃないでしょうか。

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