大気汚染ひどくても寿命2年縮むくらいで心配ないと中国男性

NEWSポストセブン / 2013年3月8日 16時0分

 今春、スギ花粉に加えて、PM2.5という新しい名前の物質が大気中を飛んでいることが、日本では毎日話題になっている。PM2.5の発生源である中国でもとりわけ汚染がひどいと言われる河北省の省都・石家荘(せっかそう)の様子を作家の山藤章一郎氏がリポートする。

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 バスの窓の向こうが真っ白い霧に包まれてビルの輪郭がぼやけている。空気にまったく透明感がない。水に牛乳を垂らしたら、こう白濁する。春節が終わった2月下旬の正午過ぎ、黄河の北側=河北省の省都・石家荘を訪ねた。

 北京から車で3時間半ほどの内陸部、交通の要衝にある。中国は重厚長大の経済下、世界一の石炭消費、生産地である。その主要生産地は、河北省に隣接する西側の山西省で、東に流れる風に乗って、汚染微粒子が飛来する。すぐ間近である。

 餃子など日本向けの冷凍食品を製造し、劇薬混入事件を起こした〈天洋食品〉はこの都市にある。民航酒店というバス停で降りた。鼻に空気を強く吸い込んでみた。臭いはしない。長椅子の男が咳込んでいる。口を手でふさぐどころか、上半身を反らせ、唾を噴きつける。

「ケェッ~ホケホ」と高音域の乾いた声を喉につまらせ、ついで「ウウンウウ」と低音をうならせる。

 こんどは、痰をプュッと飛ばす。

「大丈夫ですか」と尋ねると、「很厳重(ひどいもんだ)」と答えた。

「2月の初めがいちばん大変だった。前の車の尻も見えない。みんな、ハザードランプつけて走った」

 夕刻前、石家荘で最も高い建物・〈電視塔〉に登ってみた。195メートルの最上階の展望台から、歩いて錆びついた鉄段を辿り、天辺部分に出た。市内を360度一望できる。

 北側のビル群、南側のアパート群が、白濁した大気と空の下に漂っている。かたちが見えない。吹きさらしの風に耳、顔面を切られる。痛烈に寒い。

 風の向きで、〈空中鬼〉の濃度は変化するのだろう。白濁の濃淡がとつぜん反転する。そして希釈されるか、あるいはさらに濃密な超微粒子となって日本に向かう。小麦、綿花、トウモロコシの大生産地帯で、広大な平野がひろがるというが、それも見えない。ただ、霞んでいる。

 翌日、気分も眼も慣れてきたのか、いくぶん〈空中鬼〉は薄い。北京からここに来て5年になる男に、屋台村に似た大衆食堂〈千品府〉で声をかけた。

「北京よりこっちのほうが濃度が高いんだよ。だけどなんも心配してないよ。寿命が2年縮むぐらいってもんだ」

※週刊ポスト2013年3月15日号

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