ベストセラー手がけた関係者100人以上に取材した『重版出来!』

NEWSポストセブン / 2013年5月13日 7時1分

【著者に訊け!】松田奈緒子氏・著/『重版出来!』/小学館/580円

 よくある業界系コミックかと思いきや、全く違った。これは働く人全てに向けた、まさに〈胸熱ドラマ!!〉だ。松田奈緒子氏の最新作、その名も『重版出来!』。

 重版とは〈本を売り切ったあと、更に刷ること〉。「重版出来」は、更に刷った本が販売できるようになることをいう業界用語である。女子柔道部出身で、一時はオリンピック候補にも名を連ねた体育会系女子〈黒沢心〉が、持ち前の体力と集中力で大手出版社〈興都館〉に入社し、本に携わる様々な人と共に戦う奮闘記は、なるほど出版業界の内輪話や就活ガイドとしても読めるだろう。

 が、モノをつくり、売る難しさと喜びは、どの業種も変わらない。まして仕事や人生との向き合い方すら読む者に問いかける本作の感動が、普遍的なものであるのはいうまでもない。

「一流の勝負師というのは必ず〈体軸〉が一本通り、そのブレない軸が〈武運〉を呼び込むらしい。体を鍛えることで軸が一本通った主人公が、本を作り、売る現場で引き起こす化学反応を描いてみたかった。

 心は人を尊敬するから誰の懐にも入って行けるし、昔の日本人にあった高等庶民的な善きものを持った人。今は日本全体が自分の損得ばかり気にする感じもありますが、〈精力善用、自他共栄〉をモットーとし、どこか昭和が香る彼女のおかげで、作品に背骨が一本、通ってくれました」(松田さん)

 青年コミック誌〈週刊バイブス〉編集部に配属され、編集長から日々アホ呼ばわりされても元気一杯な心は、ある時、営業課長の〈岡〉が仕掛ける鉄道漫画『タンポポ鉄道』(八丹カズオ著)の販売作戦に参加。作品の魅力を編集者・営業・書店員までが一丸となってアピールする〈チーム戦〉が、実際にベストセラーを産む瞬間に立ち会う。

 手作業での試し読み冊子の作成や、地道な書店回り。書店員も徹夜でPOPや人形を作成し売り場を作るなど、各現場の総力を結集した施策が徐々に売り上げを押し上げていく様子は、読む者がチームの一員になったような錯覚すら覚える熱さに溢れている。そして、普段漫画を読まない層も巻き込んだ“風が吹く”瞬間は、まさに第一巻の白眉といえよう。

 また、本書ではベストセラーに欠かせない要素である〈運〉についても印象的に描かれている。例えば、〈すべての運をヒット本に注ぎたい〉と考える興都館社長の〈久慈〉は、若い頃ある老人にこう言われたのだ。〈運は貯めらるっぞ〉〈問題は、「どこで勝ちたかか」や〉〈考えて考えてゲロ吐くほど考えて、見極めろ。運ば使いこなせ〉

「何かのために運を貯めようという気持ちや生き方っていいと思うんです。成功者ほど自分は運がいいんだって言いますよね。その運の良さが何かというと、人として当たり前のことをしてきたかどうかなのかなと思います。私がこうして漫画を描き続けていられるのも、『ああ、万引きをしてないからか』と思ったり(笑い)。

 今回、編集者や営業さん、取次や印刷所や書店員の方など100人以上に取材しましたが、ベストセラーを実際に手がけられた方は、『人事を尽くすだけ尽くしていると、全てが嘘みたいにうまく転がる時があるんだ』と仰います。全力で取り組むからこそ、運を呼び込めるのかなぁと思いました」(松田さん)

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2013年5月24日号

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