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『アンチヒーロー』悪徳検事正役で野村萬斎が見せる怪演 "半沢"の香川照之の演技とはどこが違うのか?臨床心理士が分析

NEWSポストセブン / 2024年6月16日 7時15分

狂言方和泉流の能楽師であり、俳優、演出家としても活躍する野村萬斎(時事通信フォト)

 これまでドラマには様々な悪役が登場してきたが、視聴者の印象に残るのは、そのキャラクター設定だけでなく演じる俳優の芝居によるところも大きい。2024年4月から放送されている日曜劇場『アンチヒーロー』(TBS系)では、エリート検事正・伊達原泰輔に扮する野村萬斎の悪役ぶりが出色だ。臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、見たことがあるようでも新しい、野村萬斎の悪役について分析する。

 * * *
 あまりの怪演ぶりに既視感しかない。なのにTBSの日曜劇場は初出演だという。狂言師、野村萬斎さん演じる悪役ぶりがすごい。

 野村さんが出演しているのは『アンチヒーロー』。主役の長谷川博己さん演じる明墨弁護士と対峙する東京地検トップの悪徳検事正、伊達原役だ。回を重ねるごとに激しくなっていく顔芸、激しい感情が見え隠れする声音とセリフ回しから目が離せなくなる。

 ネット上の辞書によると、怪演とは”不気味でありながら、奇妙な魅力のある演技”となる。怪演といえば日曜劇場『半沢直樹』に出演し、その演技で注目を集めた香川照之さんがいる。既視感の正体は香川さんの大げさで感情たっぷりの顔芸と演技のせいだ。今にも爆発しそうな感情をなんとか抑え込んで、半沢直樹に土下座するシーンは今でも思い出す。だが野村さんの演技はそんな香川さんの演技とは一味違っている。

 野村さんの演技は、感情の激しさを見せながら、同時にその演技から冷淡さや計算高さといった氷のように冷たく利己的な心を感じさせる。感情的になればなるほど、言葉の1つ1つをはっきりと発し、声のトーンが多彩に変化しても、セリフの1つ1つはきっちりと聞き取れる。明墨弁護士を演じる長谷川さんも活舌がいいが、野村さんも活舌がめちゃくちゃいい。感情の波が激しさを増し、テンションが上がっていくほど早口になるが、セリフは上滑りすることなく活舌はますますはっきりしていく。だから感情的になればなるほど、逆にどんどん冷めていくという計算高く腹黒く、謀略を張りめぐらす伊達原のキャラクターが際立ってくる。

 圧倒的な権力で相手をねじふせようとする昭和の匂いのするパワハラ、モラハラ的な香川さんの演技よりも、さらに歪んで屈折した意地悪さや執念深さが増している。それは野村さんの狂言からくる演技によるところが大きいのではないだろうか。通常、役者の演技や表情にはスポーツでいうところの予備動作、車のハンドルでいう遊びがあると思う。目が潤み鼻がかすかに動く泣きそうな表情、頬や口角が上がり始める喜びの表情など、ドラマや映画を見ていると、表情が瞬時に切り替わっているように見えて、案外、次にどんな顔をするのか、どのような表情を見せるのか想像がつく。

 ところが野村さんの表情にはこの予備動作や遊びがなく瞬時に切り替わる時がある。表情と表情の間に能面のような無表情が挟まるため、次の表情が読めなくなることもある。顔芸のごとく目を吊り上げ、口を大きく開けた途端、蝋人形のように表情から感情が消え失せてしまう。だからますます不気味になる。。予想ができないほど鮮やかに切り替わる表情は、彼が演じる役柄につかみどころのない複雑さやどこが底なのかわからない奥深さを与えているのだろう。

 思う存分、余すところなく悪徳検事正役を演じている野村さん。『アンチヒーロー』最終回、長谷川さん演じる明墨弁護士とどんな対決をみせてくれるのか、締めの演技が気になるところだ。

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