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《汚水で家が水浸し…生活が崩壊》作家・岸田奈美さんが感じた「自分の限界」と責任転嫁を繰り返す「社会の構造」

NEWSポストセブン / 2024年6月21日 13時45分

 すぐに管理会社に連絡したものの、水道屋さんからは配管がどうなっているかわからないから漏水を簡単には止められないって言われて……。想像できないと思うんですが、上の人がトイレに行ったら、その汚水がボトボトって天井から垂れてくるんです。これを水道屋さんが止められないなら、することはひとつで、とにかく上階の人にお願いをするしかない。

 とはいえ、『すみません、トイレを使わないでください』と懇願しても、『いやいやいや、俺らは悪くないから』でだいたい終わり。それはそうで、みんな生活があるんです。しかもわれわれはマンションという蜂の巣の中に詰められた他人同士で、全員自分の生活が一番なわけですよ」

 困ったときはお互い様というのは、賃貸マンション住まいでは通用しないということを痛感したという岸田さん。やさしく声をかけてくれたはずの隣人も、井戸端会議で愚痴をこぼしている声を耳にした。精神的にも知らず知らずのうちに悲鳴を上げ始めた。

「私はトラブルや嫌な出来事があっても、起こらないほうがよかったと思ったことが一度もないんですよ。今となっては、父が亡くなったことでさえも受け入れているんです。

 父の死があったから、より母と仲良くなって、今は私が夫みたいな存在になっています。父の死がなかったらエッセイを書くこともなかったと思いますし、亡くなったことはたしかにつらかったけど、めっちゃ強くなったよねって思うので。

 ただ、『まぁまぁ、これまで何かあっても大丈夫だったし、どうにかなる』と頭では考えていても、漏水が起こったときはとにかくしんどくて。無理なときは無理なんやな、『大丈夫大丈夫』と言っているのは半分本当で、でも半分うそで。

 お母さんから『あんた今日も漏水の家行くの? 大丈夫? あんたが気に入って買い集めた家具とかビチャビチャになってるんやろ?』って声をかけられて、『あ〜大丈夫大丈夫、ちょっと着替えるわ〜』と言いながらもその瞬間に泣き崩れたらしくて。バグですよ、もう。脳を騙すのにも限界があるんです。自分の限界を知りました」

責任転嫁の連続がトラブルを生む

 生活が崩壊し、まわりも協力してくれない。ただただ汚水で水浸しになる部屋になすすべがなく、精神的に追い込まれていく中で、岸田さんは責任転嫁をする人たちを見つめはじめた。

「面白かったのは、仕事というのは役割の範囲を決めることなんだなと気づいたこと。つまり、自分がやらないことを決めるというのが、仕事なのだなと。

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