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孫に語る選挙 大人たちの”熱い戦い”についてどう説明するか

NEWSポストセブン / 2024年6月29日 16時15分

東京都知事選挙が告示され、選挙ポスターが張られた掲示板。過去最多の56人が立候補した(時事通信フォト)

 選挙は民主主義の根幹、しかし語り合うのが難しいの政治である。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 この物語は、あくまでフィクションです。実在の地域や選挙、候補者にはカケラも関係ありません。イメージが重なる部分があったとしても、それは気のせいです。

 20××年の夏、日本のどこか大きな町で「町のいちばん偉い人」を決める選挙が行なわれていました。選挙管理委員会の予想をはるかに超える多くの立候補者があり、ポスターの掲示板の枠が足りなくなるという前代未聞の事態になりました。

 いざ選挙期間がスタートしてみると、その貴重な掲示板の枠の半分ぐらいに、同じポスターが貼られています。場所によっては、イヌやネコのイラストが貼られているところもあるようです。テレビの政見放送でも、出てきた6人のうち5人が同じことを言っているなんてことがありました。これまでもこの町の選挙では、ユニークな人が立候補して話題になったりもしていましたが、それとは次元が違う「異様さ」です。

 この町に長く住んでいる源三さん(仮名、73歳)は、掲示板の前に立って腕組みをしていました。「うーむ、孫に聞かれたら、どう答えたのものか……」と悩みながら。

 源三さんには、近所に住む孫娘がいます。名前はアヤちゃん(仮名、6歳)。好奇心旺盛で、いつも大人を質問攻めにします。それはいいのですが、近ごろは「ねえ、ジイジ、月はなぜ落っこちて来ないの?」といった鋭くて難しい質問もしてくるようになりました。テレビで話題になっている「選挙」にも、興味を持っているに違いありません。

「同じポスターがいっぱい貼ってあるのはなんでなの?」

 そんなことを思った数日後、源三さんの家にアヤちゃんが遊びに来ました。「滑り台がやりたい」と言うので、ふたりで手をつないで近所の公園に行きました。公園の横には選挙ポスターの掲示板があります。

「ねえ、ジイジ、同じポスターがいっぱい貼ってあるのはなんでなの?」

 掲示板を見ていたアヤちゃんが、不思議そうに尋ねました。子どもの目にも、さぞや奇異な光景に映ったでしょう。源三さんは「やっぱり来たか」と思いながら、考えておいた答を話しました。

「アヤッペ、いいところに気が付いたのう。『こういうことをしてはいけません』っていう決まりはないと言いながら、得意気にやった人がいるんじゃ。してはいけないのは当たり前すぎて、誰も決まりなんか作る必要はないと思っていたんじゃがな」

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