さながらゼレンスキー大統領のように世界に支援を訴え続けた蒋介石夫人・宋美齢
NEWSポストセブン / 2024年7月18日 12時15分
日中戦争が勃発してまもない1937(昭和12)年9月、中華民国トップ・蒋介石の妻で流暢な英語を駆使する宋美齢夫人が、南京から米国向けラジオを通じて自国の危機を訴えた。現代で言えば、さながらウクライナのゼレンスキー大統領がロシアの非道を世界に訴えたように日本軍の横暴を批判したのだった。宋美齢は、この対米放送に限らず、多数のメディアやルートを通じて発信し続けていた。その姿は、まさに卓越したアジテーターだった──。
米国在住のノンフィクション作家・譚?美氏(?は王偏に「路」)の話題の新刊『宋美齢秘録』より抜粋・再構成。
* * *
1937(昭和12)年9月11日夜、宋美齢は南京から英語で対米放送を行った。
NBCの短波ラジオで放送された演説は、欧州を中心に全世界へ向けて発信され、米国内ではCBSの放送ネットワークを通じて全米に中継された。さらに翌日、演説の全文が新聞各紙に掲載され、NBC放送を聞き逃した人々に文字として届けられた。
この演説について、日本の内閣情報部は「宋美齢の対米放送──調乙23号 昭和12年10月25日」という分析を残している(参考資料/『情報局関係極秘資料』荻野富士夫編、不二出版、2003年9月刊)。
その分析では、宋美齢が「弱者」中国のファーストレディであり、米国育ちの流暢な英語の使い手だというインパクトの強さとカリスマ性によって、「放送資格百パーセントともいうべき『役者』」と評価されている。また、彼女の演説が破格の扱いを受け、「およそ放送のもたらし得る最大の効果を挙げ得た」「日本に与えた損害は大きく」と分析し、米国ばかりか世界の人々に大きな影響を与えたとみていた。
海外へ向けた宋美齢のアピールは、この1937年9月の対米放送だけではなかった。蒋宋美齢著『わが愛する中華民国』(長沼弘毅訳、時事通信社、1970年刊)には、ほかにも海外メディアを使った“宣伝戦”の一端が紹介されている。
空襲下の民衆の苦しみをアピール
1937年12月、ニューヨークの「フォーラム」誌に、「中華民国は、その地位を保持する」と題して、日本の攻撃に対してアメリカの支援を期待しつつ、こう述べている。
〈私は、日本軍の爆撃機が、侵入して来る前に、この原稿を書いております。空襲警報は、十五分前に鳴ったからです。[中略]私どものいる上海を敵が爆撃しはじめたのは、二カ月以前からでした。その頃の民衆の苦しみは、形容のしようのないようなものでありました。[中略]
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