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西條奈加氏『バタン島漂流記』インタビュー「人格者よりも欠点がある人の方が面白いし、ロマンよりも生活感を私は書きたいんです」

NEWSポストセブン / 2024年7月21日 16時15分

 だが上陸直後にいきなり船を壊され、奴隷扱いさえされた彼らが、船を自力で再建して故郷に帰る計画を共有できたのも、和久郎の挫折あってこそ。その間に身についた船作りの基礎や、〈アダン〉や〈カラム〉といった彼を慕う島の子供達の協力もあって、新生颯天丸は約2年後に島を出る。

 その時点で3人が落命し、1人は島に残ることを決意。さらに残りの11人が日本に着くまでや着いてからも、鎖国の禁を破った彼らには幾多の試練が待つのである。

「最初の村で奴隷同然に酷使され、南京まで船があるからと唆されて脱走までして移った次の村でもその話が嘘だったり、記録自体はあっさりしているんですが、短いわりにいろいろな話の要素が詰まっているんです。

 個人的には1人で島に残ったという男の心境が最大の謎で、なぜ彼は1人で島に残ったのか、余程のひねくれ者か、あるいは逆に情が深すぎたのか。延々考えながら書いていきました」

 島では〈ビニエベフ〉と呼ばれるバナナの甘さなど、「島ならではの天国感」も書きたかったものの1つだといい、人の強さも弱さもこの世の光と闇も、作家の目は無機質な記録の向こうに見透かしてしまうらしい。

【プロフィール】
西條奈加(さいじょう・なか)/1964年北海道生まれ。会社員を経て2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2012年『涅槃の雪』で中山義秀文学賞、2015年『まるまるの毬』で吉川英治文学新人賞、2021年『心淋し川』で直木賞を受賞。他に『善人長屋』シリーズ(2022年にドラマ化)や『ごんたくれ』『無暁の鈴』『曲亭の家』等。「うちの家は父が歯科技工士、祖父も時計職人で、だから物を作る場面に惹かれるのかも。私は不器用ですけど(笑)」。157cm、B型。

構成/橋本紀子

※週刊ポスト2024年8月2日号

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