秋吉久美子、“推しメン”安冨歩・東大名誉教授と語る“生きる力” 「私たちを支えている何らかの神秘的な力を受け入れないといけない」
NEWSポストセブン / 2024年7月23日 15時58分
秋吉:その神秘的な力とは何ですか? 宗教?
安冨:そうですね、支えてくれていると信じられるものですから、“神”と言えなくもないのですが、的確に表せる言葉がありません。
秋吉:名付けられないものの、人間には生きるための力が備わっているから、それを信じて受け入れれば不安にならない、ということですか。
安冨:そうです。
秋吉:その生きる力を信じて受け入れるには、どうしたらいいのでしょう?
安冨:人の目より、自分の感覚をまずは信じるべきだと思います。私は絵を描いたり、バイオリンを弾いたりもしているのですが、どれも上手とは言えない。
でもいいんです。人からどう思われるのか、恥ずかしいなどと他人の評価を気にしてはいけません。バイオリンもやってみたら、やらないときよりも一歩前に進みます。耳も肥えて、ますます自分の演奏が下手に思えるんですけど、バッハの曲がより深く理解できたりします。何事もやってみないとわからないんです。その上でよく考え、それでもわからなければ、人に聞くんです。
馬と接することで得られるもの
秋吉:それで先生のような生き方に行きつくわけですね。東京大学の教授という地位を捨て、馬の世話に汗を流す毎日に喜びを感じられるのは、生きる力を信じているからなんですね。
安冨:馬と接することが多くなってから、自然な感情を取り戻して、心が安定しました。というのも、犬や猫はこちらを認識して懐いてくれますが、馬は私たちを個体識別しないので、どんなに世話をしても決して懐いてくれません。そのときの対応だけがすべて。そしてとても怖がりで繊細。
そんな馬とコミュニケーションをとるには、高圧的な態度をとったり、不安な様子を見せたりしてはいけない。そうしないと、怖がって動かなくなってしまうからです。馬はその鋭い感受性で人間の心の状態を映し出してくれるように思います。
私の心が安定していれば馬の反応もいいのですが、不安を抱えていれば、馬も不安になって、反抗したり暴れ出したりします。馬とのコミュニケーションは私にとってフィードバック装置のようなものなんです。
秋吉:ご自分の心の状態を確かめるために、先生は毎日馬に乗っているんですね。
安冨:そうですね。
(第3回に続く。第1回を読む)
【プロフィール】
秋吉久美子(あきよし・くみこ)/女優。高校在学中の1972年、『旅の重さ』(松竹)で映画初出演(このときは小野寺久美子名義)。1974年、藤田敏八監督の『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』(いずれも日活)で脚光を浴びる。代表作に『あにいもうと』『深い河』(ともに東宝)、『異人たちとの夏』(松竹)など。55才で早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科を修了し、公共経営修士を取得。著書に『秋吉久美子 調書』(筑摩書房)など。
安冨歩(やすとも・あゆみ)/東京大学名誉教授・経済学者。1986年に京都大学卒業後、住友銀行に入行。2年半で退職して京都大学大学院経済学研究科へ。満洲国の経済史を専門とし、1997年に日経・経済図書文化賞を受賞。2009年、東京大学東洋文化研究所教授に就任するが、2023年に退職。現在は東京大学名誉教授。『生きるための論語』(ちくま新書)、『誰が星の王子さまを殺したのか—モラル・ハラスメントの罠』(明石書店)など著書多数。
取材・文/上村久留美 撮影/楠 聖子 ヘアメイク/黒澤貴郎 衣装協力/Down to Earth(安冨歩さん)
※女性セブン2024年8月1日号
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