《追悼評伝》徳田虎雄氏“不随の病院王”の功罪「『絶対善』の目的のためには手段はすべて肯定される」 伝説の選挙戦「保徳戦争」では現金が乱舞し選挙賭博も横行
NEWSポストセブン / 2024年7月25日 7時15分
故郷の奄美群島区から徳田が衆院選に初出馬したのは1983年。そして、これが徳田の徳田たる所以なのだが、目的のためには手段を選ばない。もう少し正確に記せば、離島や僻地に医療を届けるという「絶対善」の目的を達するには、手段はすべて肯定され、善悪など考えもしない。傍目には馬鹿げた法螺話を吹き、目の前が赤信号でも猪突猛進する。
徳田の最側近として徳洲会の実務を一手に任されていた能宗克行も、苦笑してこう明かした。
「車を運転していると理事長(徳田)からしょっちゅう怒鳴られました。『親の死に目にあえるかどうかっていう時に信号を守るやつがどこにいる!』って。理事長にしてみれば、多くの命を守るための病院建設はそれほどの重要事なんですが、一般の方には理解されないでしょう(笑)」
徳田が出馬した奄美群島区には、世襲議員の保岡興治がいた。しかも最強軍団と謳われた自民党田中派に属し、以後の長きにわたる「保徳戦争」はもはや“伝説”である。
選挙戦では現金が乱舞し、買収や贈賄は日常茶飯。選挙賭博も横行し、首長選では選管トップが直接関わって捕まる不正投票事件まで起きた。世の常識からすればすべて「絶対悪」に類する所業だが、往時の様子を現地で取材すると、もともと闘牛や賭博が盛んな島のおおらかさも相まって、どこか豪気な笑い話に感じられてしまうのは不思議だった。
栗本慎一郎氏が明かした「徳田の本質」
もちろん、このような所業を肯定するつもりはないが、稀代の病院王であると同時にキワモノ政治家にもなった徳田は、左右を問わぬ政治家や文化人に慕われもした。石原慎太郎、鳩山由紀夫、城山三郎、野坂昭如、高橋三千綱……。
その一人で、明治大教授を経て政界に転じ、一時は徳田と政治行動を共にした栗本慎一郎は、徳田の本質をこう回顧した。
「明らかに汚いし、マズいと思うことはいくつもあったけど、根が純粋なんです。悪事をするのに純粋もくそもないけど、それでも純粋なんです」
そして栗本は評した。「汚くないウンコ」みたいだった、と。
たしかに徳田は世の常識や法など屁とも思わない狼藉者であり、キワモノであり、特に政治絡みの無法な所業の数々は断じて認め難い。しかし一方、すべては幼き日の悲哀を原点とする「絶対善」と評せる目的のためであり、現実にそれを実現させてもきた。徳田を蛇蝎のごとく嫌う鹿児島の医師会幹部ですらこう語ったのだ。「素直に認めざるを得ない部分もある。鹿児島の離島医療を徳洲会が担っているのは事実だから」と。
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