大阪桐蔭「最強世代」以来の夏優勝を阻んだ下関国際「伝説のトリプルプレー」 ショートからマウンドに上がった仲井慎の回想
NEWSポストセブン / 2024年8月8日 6時15分
「シートノックの時に、監督さんから『いつも通り、自分たちらしく、普通にやれば勝てる』と言われて。気持ちがラクになりましたね。僕らはベスト4以上の成績を残すためにやってきた。相手の名前にびびることもなかった」
初回に大阪桐蔭が松尾のタイムリーなどで2点を先制する。下関国際も3回、5回に1点ずつ返して同点に。3対3で迎えた6回裏の守りで古賀が1点の勝ち越しを許したところで、仲井がマウンドに向かう。ピンチを切り抜け、試合は終盤に。
明暗を分けたのは──。その問いに対して、仲井は即答した。
「やっぱり7回裏のアレですね」
「身体が勝手に反応した」
仲井は無死一、二塁のピンチを背負う。当然ながら大阪桐蔭の策として考えられるのは送りバントだ。一塁手が前に猛チャージして大阪桐蔭の打者・大前圭右にプレッシャーをかけるも、仲井は2ボールにしてしまう。すると西谷監督も遊撃が本業の仲井のフィールディングを警戒しながら、よりアグレッシブに仕掛けていく。投球と同時に走者を走らせつつ、打者はバットを寝かせるというバントエンドランのサインを送ったのだ。
「2ボールになってしまったことで、真ん中にボールを投げて、相手にバントをさせて、二塁走者を三塁でアウトにすることを想定していました。ところが、真ん中に投げようとしたボールが引っかかって、外角にいってしまったんです」
そのボールを大前がバットに当てる。ちょっとしたライナー性の打球が仲井のグラブに収まり、ボールは二塁、一塁と送られた。飛び出した二塁走者、一塁走者はいずれも戻ることができず、三重殺(トリプルプレー)が成立したのだ。
「さすがにトリプルプレーの練習はしたことがありませんでしたが(笑)、投内連係はしつこくやった練習でした。ただ、自分は基本的にショートを守っていたので、投手のフィールディング練習はあまり参加していなかった。あのプレーは身体が勝手に反応した感じでした。確かに苦しい試合でしたけど、大阪桐蔭を追いかける展開を想定して日頃からケースバッティングなどに取り組んでいました。それが実った試合でした」
7回の大ピンチのあとのビッグチャンスは9回表にやってきた。1死二、三塁から走者を一掃するタイムリーが飛び出し、逆転に成功。最後の守りは仲井が三者凡退に抑え、5対4で下関国際が準決勝に進出した。偉大な先輩を超えた瞬間だった。
「3年間積み上げてきたものを表現できた試合だったと思います」
決勝で宮城・仙台育英に敗れたあと、仲井はU-18高校日本代表に選出された。U-18野球W杯はコロナの罹患によって辞退せざるを得なかったものの、2年前の夏、最も輝きを放った球児だった。
その仲井は今、駒澤大学に在籍(2年生)する。体重は入学から10キロ以上増え、自然と球威は増している。高校時代のように遊撃手用のグラブは手にしていない。チームは今春、東都大学野球リーグの二部に陥落してしまったものの、再び一部に昇格させることが投手専任となった仲井にとって喫緊の目標だ。その先に、プロ野球選手という大きな夢がある。
■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)
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