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駐日ジョージア大使が4歳当時「間違えないように緊張して発した」初めての日本語とは【連載「日本語に分け入ったとき」】

NEWSポストセブン / 2024年8月16日 11時11分

 来日した4歳の時、ご両親も日本語は分からなかったという。レジャバ大使は保育園や幼稚園に通いながら、日本語を吸収していったのだ。

「当時、友達や近所の人が使う日本語を聞いて、理解できてはいたけれども、どうしてもアウトプットすることができなかった。親も私が日本語を話さないことをすごく心配していました。自分は外国人で、周りから特別視されているという認識に加え、子供らしい恥ずかしさやためらいがあったんだと思います。

 あるとき、我が家に日本人の女性をお迎えすることになり、母に『ちゃんと受け答えをしなさいね』と強く言われました。その方を車で駅まで迎えに行き、家に着くまでの途中、踏切で停車したときのことです。通過する電車を見て、その方が『あれは何?』と私に問いかけました。

 頭の中に2つの言葉が浮かびました。でんしゃと、じてんしゃ。似ているから、どちらだろうと一瞬思いました。ものすごく緊張しつつ『でんしゃ』と口にし、女性は『偉いね』と微笑んでくれました。大変な思いで言った言葉だったので、合ってた、良かったと安堵しましたし、達成感のような気持ちも胸に広がりました。5歳か6歳だったと思うんですけど、それが突破口になって、そのあとは一気に言葉が出てくるようになりました」

 ブレイクスルーを経て、大使はどんどん日本語を使うようになっていったと言う。

「自分から話しかけることもできるようになって、友達もたくさんできました。読み書きもそんなに大変ではなかったですね。

 ただ、一旦ジョージアに帰国し、アメリカでの生活を経て日本に戻って来た小学5年生のときは、周りとかなり差があると痛感しました。会話もできるかできないかのレベルになってしまっていたので、日本語の補習を受けたりもしました。

 そこからですね、覚えていく楽しさを味わうようになったのは。少し上達しただけでも、注目されたりすごいねと言われたりすることでモチベーションが上がる。学習に弾みがつく。母語ではないからこそ、複雑な表現や言葉の成り立ちを知っていると褒められる。これは自分の武器だなと思うようになりましたし、言葉自体への興味も高まりました」

 なにか学習上で苦労したことはなかったのだろうか。漢字を苦痛に感じるとか……。

「もちろん楽ではありませんでしたが、苦痛ではなかったかな。常用漢字が2000もあると言うと、ジョージアの人はみんな驚きます。でも、生活の中でも漢字は覚えることができるんですよね。毎日の暮らしの中で目にする漢字をひとつ覚えると、それは次の漢字を獲得することにつながります。それに、漢字って純粋に面白いじゃないですか。自分が言いたいことを、漢字という文字表現でより正確に伝えられる。それはとても面白いし、便利だと感じます」

(第2回に続く)

【プロフィール】ティムラズ・レジャバ/ジョージア出身。1992年に来日、その後ジョージア、日本、アメリカ、カナダで教育を受ける。2011年9月に早稲田大学国際教養学部を卒業し、2012年4月キッコーマン株式会社に入社。退社後はジョージア・日本間の経済活動に携わり、2018年ジョージア外務省に入省。2019年に在日ジョージア大使館臨時代理大使に就任し、2021年より特命全権大使。

◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。

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