《マツコもかつて絶賛》フワちゃんはコンプラ時代に「ちょうどいい嫌われ役」だった? イチYouTuberからテレビ界で “何をしても許される存在”になるまで
NEWSポストセブン / 2024年8月18日 11時15分
YouTuberとして人気に火がつき、テレビでも見ない日はないほどのブレイクを果たしたフワちゃん。個性的なキャラクターが支持される一方で、度を超えた破天荒ぶりは賛否両論だったといえるだろう。そして8月上旬のSNSでの投稿をきっかけに、ラジオ番組やCMから降板することになっった。そんなフワちゃんがテレビで求められ続けてきた理由について、有名人批評に定評があるライターの仁科友里さんが昨今の芸能界事情を踏まえながら分析する。
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タレント·フワちゃんによる、X(旧ツイッター)での芸人・やす子さんに対する不適切なリプライ。フワちゃんはやす子さんとの間に確執はなく、操作ミスにより投稿してしまったと不測の事態であることを主張していますが、その代償は高くついたようです。ニッポン放送はフワちゃんがパーソナリティーを務める「フワちゃんのオールナイトニッポン」の降板を発表、Google Japanはフワちゃんが出演していた、スマートフォン「Googleピクセル」のCM動画を非公開にしました。やす子さんをいじめていたという疑惑を払しょくできなかったフワちゃんに、ますますネットは炎上。とうとうフワちゃんは休業を発表します。
仕事への影響ははかりしれませんが、私が驚いたのは、来春から使われる予定だった中学の技術·家庭(家庭分野)の教科書から、フワちゃんの写真が削除されることになったというニュースなのでした。フワちゃんは「自分らしさや個性を表す例」として、掲載される予定だったそうです。義務教育の教科書に、フワちゃん。これは少々大げさに言えば、フワちゃんの個性を、文科省が好ましいものとみなしたということでしょう。YouTuberから、教科書へ。短期間にここまで出世を遂げたタレントというのは、他にいないのではないでしょうか。そこで、今回は、フワちゃんブームはなぜ起きたのかについて考えてみたいと思います。
自信を喪失するテレビ界の人たち
最近のテレビ界には、あまりいいニュースが聞こえてこないと言えるのではないでしょうか。テレビを見る人が減っているというニュースはたびたび耳にしますし、2022年2月24日付「日本経済新聞」によると、インターネットの広告費は、新聞、雑誌、ラジオ、テレビのマスコミ4媒体の広告費を上回ったそうです。一方、オンライン動画共有サービス、YouTubeチャンネルは高い視聴回を叩きだし、フワちゃんのようなスターを生み出します。自分たちはプロだ、面白い番組を作ってきたという自負のある芸能人もしくはテレビマンほど、この結果に驚いたのではないでしょうか。そのうちのひとりが、マツコ·デラックスさんのような気がするのです。
2020年11月8日放送「マツコ会議」(日本テレビ系)に出演したフワちゃんは、子ども番組を作りたいというビジョンを持っていることを明かしています。それに対し、マツコ·デラックスさんは賛同し、「将来の10年先20年先のテレビのお客さんをフワちゃんが開拓するのよ」「すごくいい時代にこういう人がテレビに興味を持ってくれたなって思っていたのよ」「フワちゃんがテレビに合わせようとするんじゃなくて、それを面白がってくれるスタッフと仕事をすべき」「この人に課せられた使命は大きい」とフワちゃんをテレビ界の救世主のように扱います。
テレビの視聴率がよくないのは、YouTubeチャンネルのせいとは言い切れないと思いますが(YouTubeチャンネルができる前から、テレビ離れは始まっています)、慧眼と名高いマツコさんがフワちゃんを高く評価したことで、フワちゃんを受け入れられない人は古い、時代についていけていないというような空気ができあがったのではないかと思います。
コンプライアンス範囲内のイライラを提供できるから
子ども向けの番組を作りたいと言っていたフワちゃんですが、残念ながら実現しませんでした。しかし、フワちゃんは自らの遅刻をコンテンツ化するという離れ業をやってのけるのです。フワちゃんの遅刻癖はブレイクして早々に指摘されていましたが、通常、遅刻と言うのはカメラの回っていないところで注意や謝罪がなされるものです。しかし、フワちゃんの場合、その遅刻が放送され、怒られるところまでがセットで放送されるようになりました。
たとえば、2021年9月4日放送「有吉の夏休み 2021」(フジテレビ系)では、集合時刻に遅刻して、有吉弘行に「遅刻するなよ! 毎日遅刻してるじゃないかよ。時間だけは守れって言ってるの」とお説教されていました。しかし、遅刻癖は直らず、2023年9月2日放送の「有吉の夏休み 2023」においても、フワちゃんの遅刻がひどかったことが共演者の口から語られています。フワちゃんの遅刻をとりあげるのは、フジテレビだけではありません。2023年1月15日放送の「行列のできる相談所」(日本テレビ系)では、韓国ロケに行くにも関わらず、パスポートを忘れてしまったために遅刻。韓国のアイドルKARAを三時間待たせたことが明かされました。
どうしてフワちゃんの遅刻がコンテンツ化したかというと「ちょうどいい嫌われ役」を担える人が不在だったからだと思うのです。バラエティ番組には、人をイライラさせる役が必要です。ひと昔前だったら、結婚できないキャラ、ぶりっ子キャラの女性タレントがその役を担っていましたが、男女平等やハラスメントNOの意識が高まる今そんなことをすれば、女性差別だ、セクハラだと炎上しかねない。また、テレビ局はコンプライアンスを重視するようになっていますから、不倫した女性タレントというのも使いにくいでしょう。その点、遅刻というのはちょうどいいのです。コンプライアンスに違反することもなければ、差別にも加担しない。かといって、ほめられることではありませんから、周囲はあれこれ言いやすく、SNSも盛り上がるのです。
老害になることを恐れるオトナたち
フワちゃんと言えば、大御所芸人に対する呼び捨てやタメ口で知られています。が、よーく聞いてみると、使い分けをしていることがわかります。歌手という異業種の美川憲一さん、和田アキ子さんには呼び捨て、ため口です。タモリさんに対してもタメ口ですが、共演する可能性が少ないから大丈夫と判断したのではないでしょうか。その一方で、有吉弘行さんやマツコ·デラックスさんのようなMCクラスの先輩にはさん付けですし、敬語も交えています。
つまり、人を見ているわけです。芸能界というか、日本は総じて縦社会。常識に欠けた行動を取れば、誰かに怒られそうなものですが、フワちゃんは怒ってきた人の名前をテレビではっきり暴露することがあります。たとえば、2021年11月30日放送の「グータン·ヌーボ」(関西テレビ)では、小柳ルミ子さんに初対面の際にため口で話していたところ、「あんたね! 口の利き方に気をつけなさいよ! さっきから」とぴしゃりと言われたことを明かしています。正当な注意をしただけですが、テレビでこんなふうにバラされてしまうとイメージダウンになりかねませんし、フワちゃんの場合、SNSのフォロワー数がすごいので、「あの大御所にブチギレられた」なんてタイトルで拡散される可能性を考えると、怒ったほうが損です。ですから、大御所ほどフワちゃんを怒らないというルールができあがっていった気がします。
本当はフワちゃんを叱りたいのに、叱れない。そんな変な空気が生まれた原因として、もう1つ、オトナ世代が若者に嫌われることが怖いのではないかと思うのです。今年、放送作家を引退した鈴木おさむさんは「仕事の辞め方」(幻冬舎)において、引退する理由の1つとして、自分が知らない間にソフト老害に陥っていて、若い人のやる気を奪っていたことに気付いたことを挙げています。加齢臭やソフト老害のように目に見えないものは、気にする人はとことん気にしてケアする一方、気にしない人はまったく意に介さないという傾向があるのではないでしょうか。もしそうなら、ソフト老害を気にする人ほど、若い人に圧をかけてはいけないという気持ちから、結果的に若い人の問題行動を野放しにしてしまうことにつながっていく気がするのです。
フワちゃんは2020年9月15日放送の「あちこちオードリー」(テレビ東京)において、無礼なイメージがついているからこそ、あえて礼儀を学んでいるそうで、「鈴木おさむなんて、チョロっと挨拶しただけで『フワちゃん、ちゃんとしてるよ』って。まんまと」と目論見が当たったことを明かしていましたが、フワちゃんは鈴木さんのような「怒らないオトナ、若者に嫌われたくないオトナ」を見分ける嗅覚があるのだと思います。
鈴木さんは、若い才能の芽をつみたくないと思っているようですが、フワちゃんのような人を野放しにすると、今度はいつも真面目な大多数の若者のモチベーションが下がってしまうことが考えられます。目上にきちんと敬語を使い、礼儀に気を付ける人は「そんなの当たり前だろ」としか言われないのに、フワちゃんのように「ときどき、ちゃんとやる」人がほめられていたら、バカバカしくもなるでしょう。また、「フワちゃんが許されるなら、私だって」とフワちゃんを真似たミニフワちゃんが出現する可能性もありますから、そうすると、周りの「怒れないオトナたち」がどんどん疲弊してしまう。やはり、言うべきことは言った方がお互いのためになるように思います。
怒る人も守る人もいない環境を自ら作ってしまった
フワちゃんは、芸能事務所に所属して下積みしながら、芸能人としてのお行儀を学んだという経験はなさそうです。うまくできなければ、注意されたり怒られたりすることもあるでしょうが、個人事務所で活動するフワちゃんにはそういう存在がいなかったと考えられます。上述した理由で、大御所もフワちゃんを怒らないので、フワちゃんにとって芸能界は、何をしても怒られない、生きやすい場所だったのかもしれません。
しかし、今回のようにコトを起こしてしまうと、フワちゃんを高く評価してくれた人も、芸能人のお友達も、誰もフワちゃんを守ってくれません。Google Japanのような取引先には、コンプライアンス遵守と炎上回避のため、CM動画が打ち切りになってしまいました。表面的には怒らないけれど、有事には非情。フワちゃんは今、オトナの世界の怖さをかみしめているのかもしれません。
◇仁科友里/フリーライター。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ』(主婦と生活社)。
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