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《走る喜びを伝えて30年》パラリンピック出場選手を多数輩出する“スポーツ用義足の練習会” 「誰もがスポーツを楽しめる機会を」義肢装具士の思い

NEWSポストセブン / 2024年8月27日 7時15分

義肢装具士の臼井二美男さんが義足のサポートをする

 8月28日に開幕するパリ2024パラリンピックには、多くの義足のアスリートが挑む。義足には日常生活で付けるものと、競技で用いるスポーツ用義足がある。『パラリンピックと日本人』(小学館新書)の著者でノンフィクションライターの稲泉連氏が、パリ大会に出場するアスリートも輩出した、スポーツ用義足の練習会「スタートラインTokyo」の現場を取材した。

 * * *
 足を失って義足になった人に、スポーツをする機会をつくる──。日本におけるスポーツ用義足の第一人者である義肢装具士の臼井二美男さんは、切断者スポーツクラブ「スタートラインTokyo」を30年以上にわたって続けてきた。

 練習会は月に一度。小学生から70代まで、幅広い世代が参加している。この日も都内の陸上競技場には約70人が集まり、理学療法士のアドバイスも受けながら、笑顔の絶えない練習が行なわれていた。なかにはリオでのパラリンピックに出場した大西瞳さんの姿も。練習会は交流の場でもある。

「スポーツをするために義足の人がこれだけ集まるのは、世界でもこの練習会だけだと思います」

 臼井さんはそう語る。

「スタートラインTokyo」からは、これまでも鈴木徹さんや大西瞳さん、谷真海さんなど多くの陸上競技のパラリンピック出場選手を輩出。パリ大会の走り幅跳びに出場する高桑早生選手も、練習会に参加していた一人だ。

「でも、僕らの練習会の目的は、パラアスリートを養成することではありません」と臼井さん。

「私は『義足で走ること』自体が大事だと考えています。それからはパラリンピックを目指してもいいし、ただスポーツを楽しむために来てもいい。いずれは100メートルを走る、といった目標を立てますが、まず義足で走る場所をつくり、誰もがスポーツを楽しめる機会を提供したいという思いで、活動を続けています。義足づくりに伴走してきた患者さんが歩けるようになり、段階を追って走れたときは今でも胸が詰まります」

 この日も小学生の義足の少年が、家族とともに初めて練習会に参加していた。少年が初めて付けるカーボンファイバー製の「板バネ」を、臼井さんは丁寧に調整していく。

「子供が義足で走れるようになると、何より家族の表情が明るくなるんですよ。本人だけではなく、周囲に前向きなエネルギーが広がっていくのを見ていると、スポーツの持つ力を実感します」

取材・文/稲泉連(いないずみ・れん)
1979年、東京都生まれ。2005年、『ぼくもいくさに征くのだけれど-竹内浩三の詩と死-』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『復興の書店』『豊田章男が愛したテストドライバー』『日本人宇宙飛行士』『サーカスの子』など。1964年の東京パラリンピックについて取材した『パラリンピックと日本人 アナザー1964』が好評発売中。

撮影/黒石あみ

※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号

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