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マンガライターの横井周子さんが語る『トラとミケ』の魅力「命ははかない。そんな当たり前の真理が、物語の根底に吹き込まれている」

NEWSポストセブン / 2024年8月29日 16時15分

第6巻 第69話「凍凪の候」より

「女性セブン」に連載中のねこまきさんのマンガ『トラとミケ』。発売されたばかりの単行本第6巻も絶好調だ。発売早々重版が決まり、シリーズ累計部数は11万部を突破。あるファンのかた曰く、「トラとミケは年を重ねれば重ねるほど、心にズシンと響く」。ニャンでなのか──。マンガライターの横井周子さんが、その魅力について綴る。

 * * *
 なつかしくて、どこか切ない。あざやかな夕焼けを見た時、夏の終わりにひぐらしの声を聞いた時、きれいな空気を深く吸い込んだ時──。ねこまき『トラとミケ』は、人生の中で誰もが経験したことがあるであろう、あの感覚を届けてくれるマンガだ。

 名古屋・猫道商店街にある老舗どて煮屋「トラとミケ」を舞台にした、ご存知「女性セブン」の人気連載である。お店の看板メニューは、牛すじやモツを赤味噌でじっくり煮込んだどて煮とサクサクの串カツ。関東育ちの私は食べたことがないのだが、マンガを見ていると、なんだかすごくおいしそうだ。割烹着姿で忙しく店を切り盛りする老姉妹トラとミケの頭には、ぴょこんと飛び出す猫の耳……。そう、このマンガには人間は出てこない。みーんな人間味あふれる猫たちなのだ。

 おいしい食べ物とビール、古い商店街の街並み、そして時に悩みながらもそれぞれの生活を営むかわいい猫たちの姿。くすっと笑えるたくさんのおしゃべりとともに、楽しい日々がフルカラーの柔らかな筆づかいで描かれていく。年に一度のペースで刊行されているコミックスには12のお話が収録されていて、一冊の間にひとめぐりする四季も大きな魅力になっている。サービス精神旺盛なことで知られる名古屋が舞台なだけに、食・酒・町・猫・人情・季節……と見どころがてんこもりなのだ。旅行者のようにキョロキョロと細部を楽しみながら、ゆっくりと読み進めるのがおすすめだ。

 やさしくまろやかに描かれた世界観だけれど、『トラとミケ』には切なさも漂っている。季節はうつろうし、命ははかない。人生は一度きりだ。そんな当たり前の真理が、物語の根底にしっかりと吹き込まれているからこその切なさなのだろう。特にトラのかつての同級生・中村くんの「死」を描いた4巻以降は、ゆるふわな佇まいの作品の迫力が静かに増している。5巻では年を重ねてからの「恋」があたたかく語られた。そして最新第6巻で綴られているのは、生きていれば誰にでもいつかは訪れる「老い」である。

 85歳の敬老会会長・健一郎さんは、人を助けるのが生きがいだ。でも最近は、オレオレ詐欺にあってしまったり、妻が認知症になったり……。シビアな現実は決して軽いものではないけれど、猫たちの表情やおしゃべりは悲壮感からは遠く、どこまでも日常。ファンタジーのようにも思えるけれど、これってもしかするとすごくリアルなのかもしれない。

 6巻は特に最終ページがすばらしいので、コミックスを読まれる際にはぜひ楽しみにしていてほしい。季節は春、満開の桜が咲いている。ピンクの桜に囲まれて佇む老夫婦の姿を眺めていたら、やっぱり人生は美しいなあと思えて、涙がにじんだ。

※女性セブン2024年9月5日号

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