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【書評】『虚史のリズム』舞台は太平洋戦争の南方戦地と戦後の米軍占領下の日本 1100ページの大ボリュームで描く歴史ミステリー

NEWSポストセブン / 2024年10月6日 11時15分

『虚史のリズム』/奥泉光・著

【書評】『虚史のリズム』/奥泉光・著/集英社/5280円
【評者】鴻巣友季子(翻訳家)

『グランド・ミステリー』、『神器 軍艦「橿原」殺人事件』、『東京自叙伝』、『雪の階』など、奥泉光は第二次大戦(大東亜戦争)や二・二六事件など、史実を題材に取り入れた大部の小説を書いてきた。

 それらの多くはミステリーの体裁をとっている。だいたい殺人事件が起き、その謎を解明する探偵役がいて進行していく。とはいえこの著者の「ミステリー」なので、犯人捜しや謎ときに向かって直線的に進んでいくわけではない。謎ときの何十倍かの枝葉のストーリーとプロットが怒涛の勢いで押し寄せ、入り組み、絡みあう。結果、その小説はひと口では筋や結末を説明できないものになる。奇書と言ってもいいと思う。

 さて、そんな作者らしさが究極の形をとったのが、最新作の大長編『虚史のリズム』だ。千百ページ弱のボリューム、登場人物表には六十人近くが載っている。

 舞台は、太平洋戦争の南方戦地と戦後の米軍占領下の日本だ。一九四七年、棟巍正孝なる元陸軍中将が妻とともに自宅で刺殺される。これが物語の発端となる出来事だが、同時に、正孝の長男とその妻の倫子、さらに正孝の三男が、行方知れずになってしまう。そこで浮かびあがってくるのが、GHQやヤクザ組織も血眼で追っているという「K文書」なる予言的テクストである。

 この文書の執筆者として、反対米戦争派だった元海軍大佐の名が挙がるのだが、この男、行方不明の倫子の実父なのだ。探偵事務所を構えたばかりの主人公石目鋭二が調査に乗りだし、これらの殺人犯捜索と文書追跡が交錯する形で展開していく。

 作者が先行作の歴史ミステリーで問うてきたのは、「歴史の言語化」、「内省的知性」、「主体的自由」ということである。日本人は戦争体験を言語化して省察し、主体的に考えられているだろうか? それとも、群れ集まる鼠の集合体のようなものなのか? 大著の迷宮を彷徨いながら思いめぐらせていただきたい。

※週刊ポスト2024年10月11日号

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