【40年目の秘話】堀ちえみが振り返る『スチュワーデス物語』 「不器用な主人公の一生懸命さは、撮影についていこうとする私の姿そのものでした」
NEWSポストセブン / 2024年10月5日 7時15分
新人スチュワーデスの奮闘を描いたドラマ『スチュワーデス物語』(TBS系列)の放送から40年。平均視聴率約20%の人気ドラマのセリフ「ドジでのろまなカメ」「教官!」は流行語になるほどの社会現象となった。主役を演じた堀ちえみが、撮影時の思い出を語った。
「『スチュワーデス物語』の出演が決まった時、すごいプレッシャーでした。でも、やるっきゃないと」
1984年の放送終了から40年を経て、堀ちえみはこう振り返る。ホリプロタレントスカウトキャラバンでの優勝を機にデビューし、撮影当時は16歳。『スチュワーデス物語』は、事務所の先輩だった山口百恵主演の『赤いシリーズ』と同じTBSと大映テレビの制作で、JALの全面協力という“絶対に失敗できない”圧力がかかっていた。
「実は第1話を撮り終えるまでに1か月かかりました。私が演じる松本千秋は不器用だけれど、何ごとも全力で取り組む性格。監督から演技に一生懸命さが足りない、息遣いが浅いからセリフが軽く聞こえるなどと注意され、何度も何度も撮り直しました。主人公の一生懸命さは、撮影についていこうとする私の姿そのものでした(笑)」
ドラマの特徴だった印象的なセリフには、制作陣のこだわりがあった。名フレーズ「ドジでのろまなカメ」は、第17話で村沢教官が初めて発している。
「ドジで間抜けとか、のろまな娘とか、第1話から少しずつ言葉を変え、試行錯誤を経て誕生したセリフです。撮影では細部へのこだわりもすごかった。社交ダンスや阿波踊りなど数十秒の場面も、専門家から指導を受けました。私だけ冬も半袖の制服を着ていたのは、“松本千秋は楽をしてはいけない”というスタッフの想いからでした」
堀たちは、英会話や緊急海上避難訓練など本物に近い研修を実践した。
「松本千秋はドジでのろまという設定です。私は4歳から英会話を習い、中学では英語部だったのですが、わざとたどたどしく喋りました。水泳も得意で1kmを遠泳できるのですが、11月の冷たい海で溺れました(笑)」
最も過酷だった撮影は、足をケガした85kgの南洋子(中島唱子)を背負って病院に運ぶ場面だった。
「ロケ地の那須高原で、運悪く雪が降ったんです。足は滑るし、本当に重くて、その頃手術したばかりの盲腸の傷が痛くなり、気を失いかけました」
妥協を許さない制作陣、彼らに必死に喰らいつく堀が“体当たりの松本千秋”を生み出し、視聴率は最終回30.3%(ニールセン調べ)を記録した。
「正直、最初は『こんなストレートなセリフを言うの?』と疑問に感じました。でも、それでは何も進まない。5年前に口腔がんだとわかった時、撮影当時のことが甦りました。どんな状況も受け入れて、前に歩き出さなければいけないと」
『スチュワーデス物語』は人生の教科書だった。
「松本千秋のようにドジでのろまなカメでも、一歩一歩頑張れば、そのうち立派なウサギになれると教えてくれた。あのドラマがなければ、今の私は存在しません」
【プロフィール】
堀ちえみ(ほり・ちえみ)/1967年2月15日生まれ、大阪府堺市出身。1982年3月『潮風の少女』で歌手デビュー。翌年、ドラマ『スチュワーデス物語』で大ブレイク。劇中で何度も発した「教官!」が第1回新語・流行語大賞の大衆賞に。11月、書籍『人生の悩みをシンプルにする50の言葉』(主婦と生活社)出版予定。
取材・文/岡野誠
※週刊ポスト2024年10月11日号
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