なぜ起きた?夏ドラマの最終話と秋ドラマの第1話“同日同時間放送”珍事のシビアな背景
NEWSポストセブン / 2024年10月6日 11時15分
「夏ドラマの最終話と秋ドラマの第1話が同日同時刻に放送」――ドラマの編成上、めったにない珍事に注目が集まっている。その背景にはどんなことが考えられるのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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かなりめずらしい事態と言っていいでしょう。6日(日)22時30分から、「夏ドラマの最終話と秋ドラマの第1話が同日同時刻に放送される」ことになりました。
1つは生田絵梨花さん主演の夏ドラマ『素晴らしき哉、先生!』(ABC、テレビ朝日系)の最終話で、もう1つが堀田真由さん主演の秋ドラマ『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―』(日本テレビ)の第1話。最終話と第1話は現在の連ドラシーンで極めて重要と言われる放送回だけに、どちらの制作サイドも互いの内容や結果が気になるところでしょう。
そもそも民放のゴールデン・プライム帯(19~23時)で放送されている連ドラは16枠ありますが、放送時間帯が完全にかぶっているものはありません(今秋から火曜21時台でテレビ朝日系とフジテレビ系が競合)。最近は「連ドラをリアルタイムで見てもらうためには、できるだけ時間帯を分散させる」ことが共通戦略のようになっていました。
では、なぜ今回はこのような珍事に至ったのか。その背景を掘り下げていきます。
五輪、日劇、新番組の影響を受ける
まず通常は9月で終了する夏ドラマ『素晴らしき哉、先生!』が、なぜ10月第1週まで放送されるのか。同作の第1話放送は8月18日でした。他の夏ドラマより1か月以上もスタートが遅かった背景にあるのは、パリオリンピックの開催とTBS日曜劇場の存在。
日曜22時台のパリオリンピック中継は、テレビ朝日系で8月4日に放送されたほか、7月28日と8月11日も他局での放送があり、TVerの「ほぼ全競技無料配信」も裏番組としてドラマの脅威になるものでした。
また、民放ドラマ枠でトップを走り続ける日曜劇場は二宮和也さん主演の『ブラックペアン2』を放送。人気作の続編である上に、全10話中4話で22時台に放送拡大するなど、テレビ朝日系のドラマ枠にとっては放送時間が重なるケースが多く、「まともな勝負を避けた」とみられても仕方がないでしょう。
実際、テレビ朝日と制作のABCは『素晴らしき哉、先生!』の終了後、10月20日にスタートする清原果耶さん主演『マイダイアリー』から、ドラマ枠の放送時間帯を22時から22時15分のスタートに変更。やはり「放送延長の多い日曜劇場をできるだけ避けよう」という思惑が感じられます。
テレビ朝日にしてみれば、「新番組の『有働タイムズ』を20時56分から22時15分まで放送したいからドラマ枠を15分遅くした」と主張するでしょうが、リアルタイム視聴を狙う上で「トップを走る『日曜劇場』を意識していない」というのは無理があります。
さらに今回の“同日同時刻に最終話と第1話が放送”という珍事に至ったのは、『有働タイムズ』の第1回放送が「90分拡大スペシャル」だから。『素晴らしき哉、先生!』は重要な最終話であるにもかかわらず放送時間帯を30分も後倒しにされ、その結果、日本テレビの『若草物語』第1話と完全にバッティングしてしまったのです。
「何かを避けられたとしても、別の何かに当たる。ならばどちらのほうがダメージは少ないのか」「番組表の中で優先度の高いものはどれか」というテレビ朝日のシビアな編成戦略が見て取れます。
ドラマ好きへの影響はほぼなし
ただ、これらの背景はテレビ朝日をはじめ、日本テレビ、TBSなど、すべて放送局サイドの話に過ぎません。
特にドラマが好きな人であるほど「録画か配信で見る」という人が多く、同日同時刻に放送されたところで何の問題もないでしょう。特にストレスを感じることなく、「どちらかをリアルタイムで見て、どちらかを録画か配信で見る」。あるいは「両方とも録画か配信で見る」という人もいるなど、ほとんど影響を受けずに両作を楽しめます。
これは裏を返せば、「録画や配信でのドラマ視聴が増えた今なおテレビ業界では、リアルタイム視聴での視聴率獲得が何よりも優先されている」ということ。スタート時期を遅くしたり、放送開始時刻を遅らせたりすることで「わずかでも視聴率が上がるのであればやるべき」という判断基準なのでしょう。そこに、愛される作品ほど、リアルタイムではなく録画や配信でじっくり見られやすいドラマというジャンルとの矛盾があり、制作サイドを悩ませています。
一方でABCが制作する日曜22時台のドラマ枠は、2023年の『日曜の夜ぐらいは…』から『何曜日に生まれたの』『たとえあなたを忘れても』『アイのない恋人たち』『ミス・ターゲット』『素晴らしき哉、先生!』『マイダイアリー』まで7作すべてオリジナル。
さらに、岡田惠和さん、野島伸司さん、浅野妙子さん、遊川和彦さんら実績十分のベテランを起用したあと、最新作では20代の兵藤るりさんを起用するなど、どのドラマ枠よりも脚本家にこだわって制作してきました。そのため、視聴率、配信再生数ともに苦戦が続いている一方で、見ている人からの支持が厚い作品が多く、何らかのきっかけでヒット作が生まれそうなムードも感じさせます。
テレビ局にとって難しい日曜22時台
はたして今回の“同日同時刻放送”は、そんなテレビ朝日系のドラマ枠にどんな影響を与えるのか。また、今秋から15分スタート時刻を遅らせたことも含め、勝負を仕掛けられた側の日本テレビ系ドラマ枠はどのように対抗していくのか。
日曜22時台はドラマ枠だけでなく、1987年からシリーズが続くトーク番組『おしゃれクリップ』(日本テレビ系)、2010年から放送15年目に突入した情報番組『Mr.サンデー』(フジテレビ系)、大物ゲストを招いた「インタビュアー林修」で息を吹き返した感のある『日曜日の初耳学』(MBS・TBS系)がそろう密かな激戦区。
翌日の仕事や学校が気になるなど、放送局にとっては企画・構成・演出が難しい時間帯だけに、どんなジャンルのどんな内容で視聴者を引きつけるのか。今後も工夫や調整を重ねていくでしょうが、難しい時間帯だからこそ、他では見られないオリジナリティと他に勝るクオリティが問われそうです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
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