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《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」

NEWSポストセブン / 2024年11月24日 7時15分

宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏(撮影/杉原照夫)

 1969年、アメリカの「アポロ11号」が成し遂げた世界初の月面着陸の快挙を、日本人はブラウン管から眺めていた。あれから55年、いまや日本は月面探査で大きな存在感を放っている。日本人宇宙飛行士の月面着陸は目前に迫り、日の丸ベンチャーも世界をリードしている。人類が再び宇宙を目指す意義や目的とは何か。宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏が語る。【取材・文/稲泉連(ノンフィクションライター)】

 * * *
 1969年7月20日。人類が初めて月に降り立ったその日、アポロ11号のアームストロング船長が月面を踏む瞬間のテレビ中継を、中学3年生だった私は熱狂しながら見ていた一人でした。白黒テレビの画面、アームストロング船長が慎重に梯子を降りていく姿が映し出される。そのとき、これまで到達できなかった天体に人類が初めて到達したという事実に、私は大きな感動を覚えました。夜空に浮かぶ月が確かに実在し、そこに人類が立ったのだ、と。

 そのように宇宙を身近に感じられたことは、後に私自身が「宇宙に行きたい」と考え、宇宙飛行士を目指した大きな理由の一つにもなっています。

 その後、半世紀以上の歳月が流れ、いま、世界は再び月面探査を積極的に行なおうとしています。2017年にはアメリカが月面に人を送り込む「アルテミス計画」を発表し、月の探査が本格的に始まりました。

 では、なぜ人類は再び月に向かうのか。その理由について考える際、私はまず次のような前提を思わずにはいられません。

 いま、地球上では様々な開発が限界近くまで進んでいます。人類がさらなる進歩を続けるためには、新しい科学技術を生み出していかなければなりません。そのための舞台こそが地球外の環境であり、私たちの暮らす地球に最も近い月なのです。

 人類が地球の上だけで活動を続けていると、資源やエネルギー消費量の拡大が環境に過度な負荷をかけてしまいます。その意味で地球の外に生存圏を求めて活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然だと私は思っています。

月に「社会」を作る

 地球における限界を乗り越えて文化や能力を発展させていく上で、最も地球に近い天体である月は、人類にとって最初に開発すべき場所です。私たちが月面で持続可能な「社会」を作り上げることができないのであれば、さらに遠い火星やその先の宇宙に到達することも不可能です。月面開発の成否は人類の宇宙進出の試金石となるわけですね。

 人類は宇宙ステーションで20年以上にわたって生活をしてきた実績もあります。そこで培われた技術を月に転用できるため、人類が月面に進出する上での技術的な課題は既に多くが克服されていると言っていい。

 そもそも人類の進化は居住環境の変化によって促されてきました。約500万年前、アフリカの森からサバンナへ進出した人類の祖先は、二足歩行を獲得し、火や道具を使うことで文化的発展を遂げました。この歴史は、人類が地球を出て宇宙へ進出し、新たな環境に進む状況と重なります。

 地球を拠点として宇宙に進出し、そこから新たな挑戦を続けていく。いま、私たちはその最初の一歩を踏み出す時代に生きているのです。

取材・文/稲泉連

※週刊ポスト2024年11月29日号

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