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【岩瀬達哉氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】アメリカの病理を探る『国家の危機』トランプ再選で世界秩序は混乱、日本もその波をかぶり欺瞞の政治がはびこる

NEWSポストセブン / 2024年12月27日 11時15分

『国家の危機』/ボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ・著 伏見威蕃・訳

【書評】『国家の危機』/ボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ・著 伏見威蕃・訳/日経ビジネス人文庫/1320円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 4年前の大統領選挙でバイデンの勝利が確定したとき、トランプは「ホワイトハウスは渡さない」といって、「癇癪持ちの六歳児みたい」に怒りを爆発させた。「人間が耳から炎を噴くことがあるとすれば、これがそうだった」

 側近が、「ジョー・バイデンに電話してください」と懇願しても「ノー」と譲らず、「選挙違反」によって票が盗まれたと主張。多様性によって立場を奪われたと思い込む白人至上主義と反ユダヤ主義の熱烈な支持者たちを煽り続け、「アメリカを救う行進」という名のもと、議事堂への暴徒の乱入を傍観した。今回の再選によって、司法はトランプへの起訴を取り下げた。

 本書は「自己愛性パーソナリティー障害」のトランプと、「温和なおじいちゃん」のバイデンの選挙戦を通し、アメリカの病理と、分断の加速するさまを、周囲の人々の息遣いをもって活写する。

 自分のやり方を押し通すため「恐怖を利用する」トランプの手法にかかると、「頭が切れて理性的な人々」ほど心が折れ、「自分のためにならないことをやってしまう」のである。

 真の力とは「恐怖」、との信念をもつトランプは、ホワイトハウスを追われてもなお「恐怖」を煽り続けた。「彼らは私が大好きなんだ」という支持者を前に、「私たちは屈服しない。私たちは降伏しない。私たちは絶対に折れない。絶対にあきらめない」「私の仲間のアメリカ国民たちよ、私たちの運動は、まだ終わっていない」と、戦時下での「チャーチル風の演説」を繰り返した。こうしてバイデンの穏健路線に不満を抱く人々を取り込むことに成功し、ホワイトハウスへの返り咲きを果たしたのである。

 強いアメリカの再興を訴え、その実現を約束してきただけに、公約実現のため、一瞬のひらめきや思い付きで支離滅裂な政策が打ち出され、世界秩序が混乱する。従属国家としての日本は、その波をかぶり、これまで以上に欺瞞の政治がはびこることになろう。

※週刊ポスト2025年1月3・10日号

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