【関川夏央氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】安倍政権の舞台裏を掘り起こした『宿命の子』「戦後」を終わらせるという願いが込められた安倍政治
NEWSポストセブン / 2024年12月31日 16時15分
【書評】『宿命の子 上・下 安倍晋三政権クロニクル』/船橋洋一・著/文藝春秋/上=2475円、下=2585円
【評者】関川夏央(作家)
第2次安倍晋三政権は2012年末から2020年夏まで、憲政史上最長7年8か月つづいた。消費税を二回上げても倒れず、任期中五回の国政選挙に勝利した奇跡の政権ともいえる。
森友・加計学園問題、「桜を見る会」など通俗な問題で記憶され、たんに長期におよんだからこそ憎まれもした安倍政権だが、「サミット」では外国首脳に名前と人柄をよく知られた。
その「政策決定過程の舞台裏のドラマ」を掘り起こす「検証ジャーナリズム」を徹底させた結果、上下巻とも600ページ前後の長大な「クロニクル」となった。原稿用紙にして3千枚はある。
この本で、首相の仕事とは何か、政治とは、また外交とは何かが、わかりすぎるほどわかる。ただし読むのには苦労がともなう。「再登場」から始まって全21章とエピローグからなるが、各章のタイトル「尖閣諸島」「慰安婦」「平和安全法制」「習近平」「トランプ・タワー」「金正恩」「自由で開かれたインド太平洋」「パンデミックと退陣」など、興味を誘われる章から読めばよい。
2019年2月、トランプ大統領はハノイで金正恩と二回目の会談に応じた。北朝鮮に要求する、「完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄」という英語を覚えられなかったトランプだが、安倍の強い希望で冒頭に拉致問題に言及した。「エッ、また、それか」という表情の金正恩のかたわらにいた妹の金与正が、兄に「何とかならないの?」と聞いた。金は、一言、言った。「複雑な問題なんだ」
身内まで暗殺する金正恩に何が「複雑」なのかわからないが、この短いシーンも安倍本人のほか、官邸幹部二人、ホワイトハウス高官二人の証言で再現された。
世界より二十年長く続いた日本の「戦後」を終わらせる。「戦後」を「抱きしめ」てはならない。子どもたちの世代に歴史を「謝罪」しつづける「宿命」を与えない。そんな願いを込めた安倍政治をえがく「調査報道」として、これは傑出した作品である。
※週刊ポスト2025年1月3・10日号
外部リンク
- 【鴻巣友季子氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】アラビア語からの翻訳小説『とるに足りない細部』文化や宗教の違いは人間のささやかな細部から成る
- 【香山リカ氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】田中優子氏と松岡正剛氏の対談集『昭和問答』自然や社会や世界は複雑な非線形で成り立っている
- 【大塚英志氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】『生誕100年 安部公房 21世紀文学の基軸』転向したマルクス主義体験者に支えられてきた戦後
- 【岩瀬達哉氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】アメリカの病理を探る『国家の危機』トランプ再選で世界秩序は混乱、日本もその波をかぶり欺瞞の政治がはびこる
- 【井上章一氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】『論理的思考とは何か』アメリカ流の作文教育をはねつけた日本の教育界
この記事に関連するニュース
-
八木秀次 突破する日本 おぼつかない「石破外交」選挙に弱い政権は国際社会に軽んじられる 「本格政権でないと…」安倍元首相は持久戦を覚悟
zakzak by夕刊フジ / 2024年12月27日 6時30分
-
金正恩体制は激変期を迎える【2025年を占う!】北朝鮮
Japan In-depth / 2024年12月25日 23時0分
-
安倍昭恵夫人がトランプ次期大統領と面会「仕掛け人は麻生太郎・元首相」説が浮上 「石破首相に恥をかかせるため」の見方も
NEWSポストセブン / 2024年12月24日 7時15分
-
YOASOBIの「アイドル」とは安倍晋三のことである…支持者を熱狂させ批判者の心をかき乱した悲劇の宰相の正体
プレジデントオンライン / 2024年12月12日 9時15分
-
平成の世に長期政権を築いた2人の政治家の軌跡に迫る新刊書籍『小泉純一郎と安倍晋三 超カリスマの長期政権』2024年12月11日(水)発売
@Press / 2024年12月10日 9時0分
ランキング
-
12025年「値上がりしそうな中古車」何がある? 「インプ/ランエボ」もヤバい!? 米国「25年ルール」解禁で国産の“名モデル”海外流出の危機! 今買っておくべき5台は
くるまのニュース / 2025年1月2日 19時10分
-
2高級魚マグロが江戸の人々から嫌われた意外な理由 江戸時代の食事情とは
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2025年1月3日 12時0分
-
3突然現れる「三角マーク」何の意味? 赤色は見るけど緑色も存在、違いは? 高速道の電光板に表示されるめちゃ「画期的&使える」サインとは
くるまのニュース / 2025年1月3日 7時10分
-
4【モス】冬限定の「おしるこ」が美味しすぎ...。優しい甘みで心も体もほっかほか。《食べてみた》
東京バーゲンマニア / 2025年1月3日 7時36分
-
5孫の容姿を「ブサイク」帰省するたび、義父の発言にイライラ…大げさに反応しすぎ?「時間の無駄」「距離を置いて」さまざまな声
まいどなニュース / 2025年1月3日 7時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください