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【戦力外通告を受けた大阪桐蔭「春夏連覇のエース」の現在】元日本ハム・柿木蓮が明かす「イップスに苦しみました。投球フォームがバラバラになっていた」

NEWSポストセブン / 2024年12月24日 16時13分

 イップスとは以前までは当たり前にできていたことが、突然、できなくなってしまうアスリート特有の運動障害だ。たとえば、一度のデッドボールを機にインコースにボールを投げられなくなったり、一塁への悪送球によって短い距離の送球が困難に陥ったりすることをいう。投手がイップスに陥る原因も症状も様々である。

 柿木の場合は入団2年目の2020年シーズンにおける千葉ロッテとの2軍戦が引き金となった。リリーフ登板した柿木に、1球だけ、捕手が捕球できないほど高めに抜ける暴投があった。失点にはつながらず、無事に登板を終えたものの、その日の試合後、調整を目的にブルペンで投げ込みを行った際に再び異変が生じた。

「コーチがキャッチャーを務めてくれたんですけど、そこコーチが手を伸ばしてもぜんぜん届かないぐらい高めに抜けたボールを投げてしまったんです。コーチも異変を察したのか、『今日はやめておこう』と。それから5日間ぐらいノースローで様子を見ていたんですが、次にブルペンに入った時にはもう、投げる感覚、投げ方がわからなくなってしまっていた」


 
 次第に先輩を相手にしたキャッチボールでも恐れを抱くようになり、ブルペンでは捕手の背後に人が立っていたらコントロールを失った。もし暴投して当ててしまったらどうしよう――そんな不安が柿木を襲うのだという。

「例えば、捕手のすぐ後ろにネットが張られていると問題ないんですけど、ファウルゾーンに設置されたブルペンのように、万が一暴投したら捕手が遠くまでボールをとりに行かないといけない場所だと、プレッシャーを感じてボールをコントロールできないんです。それまで、他の人がイップスになったのを自分も見てきましたが、どちらかというと生真面目なタイプが多かった。だから、自分は絶対にイップスにはならないだろうと思っていました(苦笑)。なってからは本当に大変で、2年目から3年目にかけては、フォームがずっとバラバラでした」

イップス対策の「ポジティブノート」

アスリートは誰しも、自分がイップスだとは認めたくないものだ。それゆえ、イップスへの対処法は、まずは自分がイップスであることを認めることから始まると言われる。

「今まで普通にできていたことが突然できなくなるんですから、これはもうイップスだと認めるしかなかったです。イップス経験者の話を聞いたり、YouTubeで良い対処法があれば試してみたり……。自分の場合は、暴投してもいいんだ、と開き直ったり、暴投した自分が悪いのに捕れなかった捕手のせいとして割り切ることで、気持ちが少しラクになりました」

 毎日、自分自身に起きた良いことだけを綴る「ポジティブノート」を習慣にし、少しずつ精神面の不安を振り払っていく。グラウンドに出れば指先の感覚を取り戻すために短い距離のキャッチボール(ショートスロー)を繰り返し、そこで掴んだリリースの感覚を投球フォームに落とし込む。「とにかくブルペンで投げる球数は増えました」と柿木は振り返る。

 ようやくイップスから解放されつつあったのが2022年シーズンだった。1軍の試合にも初登板した。だが、オフに待っていたのは1度目の戦力外通告だった。かつて強豪・大阪桐蔭で躍動した元エースは、育成契約の打診と2度目の戦力外通告をどう受け止めたのか――。

(後編に続く)

■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)

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