【佐藤優氏×片山杜秀氏・知の巨人対談「天皇家の昭和100年」】昭和20年に退位を選ばなかった昭和天皇「現人神からの転換」の背景
NEWSポストセブン / 2025年1月12日 7時13分
佐藤:神学の世界に、事効説と人効説という考え方があります。どんなに徳のない神父が行なった儀式でも、手続き的に正統ならば有効とするのが事効説で、対して人物の徳を重んじるのが人効説です。明治以降の天皇制は事効説的なシステムですが、人間宣言の昭和天皇を経て、現上皇が築いた被災地のために祈るような天皇像は人効説的要素があります。
片山:昭和8年生まれの上皇は、アメリカ人のヴァイニング夫人から戦後民主主義的な教育を受けました。それに人効説に通じる価値観の根本には、叔父の三笠宮(崇仁親王)の影響もあるでしょう。三笠宮は皇族の人権について、退位や結婚の自由を述べられてきた。宮家として皇室の新しい価値観を率先して引き受け、皇太子の立場では言えないようなことも発信されました。
佐藤:歴史学者だった三笠宮に対し、兄の昭和天皇は生物学者だったことも興味深い。その点について、哲学者の柄谷行人が面白いことを書いていました。記者会見で戦争責任を問われた昭和天皇は、「そういう文学方面はあまり研究もしていないからよく分かりませんから、お答えができかねます」と応じた。柄谷はこの発言と、昭和天皇が生物学者だった事実に注目する。生物学は有機体的な世界観と合わさっているので、殴った手が悪いのか、指令を出した脳が悪いのかといった議論には意味を見出さないということです。
片山:近代科学で万世一系が否定される時代になり、天皇を近代的な価値観と調和させるなかで、皇族が理科系の学問を選ぶようになったと見る人もいます。しかし、哲学や倫理学、歴史学のような「文学方面」、すなわち文系の学問は、政治との関わりが生じてしまいます。
佐藤:これは実に好対照で、生物学は責任感を持たないことと親和性が高い学問ではないでしょうか。悠仁親王の進学先も筑波大学生命環境学群生物学類です。明治政府が作り上げた天皇には、おそらく責任感や答責性が求められてはならないのだと思います。
(後編につづく)
【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。元外交官、作家。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主著に『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)、近著に『賢人たちのインテリジェンス』(ポプラ新書)など。
片山杜秀(かたやま・もりひで)/1963年、宮城県生まれ。政治思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。主著に『未完のファシズム』、近著に『大楽必易 わたくしの伊福部昭伝』(ともに新潮社)など。
取材・構成/前川仁之(文筆家)
※週刊ポスト2025年1月17・24日号
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