中国で大流行のウイルス「hMPV」、春節での中国人大移動によって日本各地で大流行する可能性 山形、宮城など東北地方を訪れる中国人が増加する見込み
NEWSポストセブン / 2025年1月23日 16時15分
新型コロナウイルスの発生から約5年、やっと取り戻した日常が再び奪われるかもしれない。新たなパンデミックの引き金となる可能性が囁かれている「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」が、「春節」のお祭り気分とともにやってくる──。
厚生労働省は1月9日、2024年12月23~29日の1週間に報告されたインフルエンザの感染者数が、統計を取り始めた1999年以降で最多を記録したと発表した。
北海道札幌市では1月中にインフルエンザ疑いの救急要請が重なり、すべての救急車が出動して「30人待ち」になった日や、搬送先が見つかるまで4時間以上かかるケースがあった。沢井製薬(大阪市)はインフルエンザ治療薬「タミフル」のジェネリック医薬品の生産が追いつかないとし、供給を一時的に停止した。
インフルエンザが猛威を振るい、昨年の夏から続くマイコプラズマ肺炎の終息も見えない。そのなかで、新型コロナウイルス流行の前兆も再び見え始めた。
切迫した日本列島に、追い打ちをかけるかのごとく“新たなウイルス”が迫っている。中国で大流行中の、「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」だ。
「感染者が急増し、中国国内の病院では夜になっても多くの患者が押し寄せ、行列になっている。警備員が拡声器を使って誘導していて、処置室に入りきれない患者が待合室で点滴を受ける状況が続いています。新型コロナウイルスが世界にまん延する直前の状況に似ている」(中国在住のジャーナリスト)
昨年12月上旬から中国で感染者が増え始めたhMPVは、瞬く間にインドやアメリカ、イギリスなどに拡大。バングラデシュでは、国内初の死亡例も報告された。
この聞きなれないウイルスについて、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が解説する。
「hMPVは2001年にオランダで発見されたウイルスで、咳や発熱、鼻づまりなど風邪に似た症状が見られます。実は日本でも毎年感染者が確認されています。乳幼児や高齢者が感染すると気管支炎や肺炎につながる可能性があり、過去には死に至った事例もある。感染力が非常に強いのも、特徴のひとつです」
2016年には日本の高齢者施設で集団感染が疑われる事例が発生。入所者28人が咳や発熱、喘鳴などの症状を訴え、その後、3人が死亡した。
日本と中国の感染状況から、上氏は「嫌なタイミング」と警戒する。その要因は、中国で1月28日から始まる大型連休「春節(旧正月)」だ。
日本の隅々までウイルスが運ばれる可能性
春節は8日間だが、連休をまたいで長期休暇を取る人が多く、中国当局は1月14日から2月22日までの40日間で、のべ約90億人が帰省や旅行のため国内外に移動すると予測している。飛行機の利用者数は、9000万人を超える見通しだという。
旅行先として最も人気なのが日本だ。
インバウンド支援を行うインタセクト・コミュニケーションズによれば、春節に海外旅行を検討している中国人の約25%が、訪日を計画しているという。
東京や大阪といった大都市や、京都や沖縄、北海道などの定番観光地には、春節の長期休暇で多くの中国人観光客が押し寄せることになるだろう。
さらに今年は、例年とは異なる観光地の盛り上がりが予想されている。
アジア最大のオプショナルツアー予約サイトを運営するKKDAY JAPANによると、今年の春節は「東北」をはじめ、地方を訪れる中国人が増える見込みだという。同社が発表した「2025年春節 人気急上昇体験先ランキング」では、4位に「福島」、3位に「岐阜」、2位に「宮城」、1位に「山形」が入った。山形と宮城をセットで訪れるバスツアーが大人気なのだとか。
日本経済にとってインバウンドの増加は喜ばしいが、hMPVの感染が広がる中国から多くの観光客が来日するとなれば、不安も募る。ましてや地方にも目が向けられた今年は、日本の隅々までウイルスが運ばれる可能性も出てきた。
上氏はこう言う。
「hMPVの潜伏期間は2~3日とみられ、発症後も症状が軽く感染を自覚しないケースもあるでしょう。感染に気づかずに来日した中国人観光客によってウイルスが持ち込まれ、日本各地でも大流行する可能性があります」
非常に強い感染力が、新たなパンデミックを呼ぶという。
「hMPVにかかり症状が出ているときは、ほかの感染症同様に体にダメージがある状態といえます。つまり、体が弱っていて感染しやすく、インフルエンザや新型コロナウイルスなどに続けて感染する危険性が生まれます。そうなった場合、症状が長引いたり、重篤な症状に陥ったりする可能性もあります」(上氏)
各地で感染者が増えれば、医療機関がパンクする恐れもある。薬が不足すれば、適切な治療ができないことで重症化するケースも予想できる。
中国政府は正確な情報を発信しているのか?
さらに上氏は、中国でのhMPVの大流行に違和感を覚えるとして、こう指摘する。
「本来hMPVは、現在の中国ほど大流行するウイルスではありませんし、従来のように症状が咳や鼻水レベルならば大騒ぎする必要はないはずです。ですが、SNSなどで中国の医療現場の混乱ぶりを見ると、重症化した患者が出ているのではないかと感じてしまいます。単なるhMPVとは異なる可能性を視野に入れなければいけません。中国政府は変異の可能性などを踏まえ、いろいろと調べていると思うので、結果次第では速やかに全世界に向けて情報をオープンにしてほしい」
アメリカのCDC(疫病管理予防センター)は1月6日、中国でhMPV症例が増加しているとの報道に、「国際社会のパートナーと定期的に連絡を取り合い、監視をコントロールしていきたい」と述べ、中国の発表をうのみにするだけでなく、国家間で情報を共有することの重要性を訴えた。
中国当局は2019年12月に武漢市で最初の新型コロナウイルスの感染者が出た際、情報統制を続けて世界中から非難の目を向けられた。
「中国政府が正確な情報を隠している可能性は捨てきれません。感染力があまりに強く、hMPVが変異した新型ウイルスの可能性もある。現状は、最も警戒すべき最凶のウイルスだとして、これからの季節、感染症対策を万全にすべきです」(前出・中国在住のジャーナリスト)
1月21日現在、中国政府はhMPV感染者数を公表していない。
※女性セブン2025年2月6日号
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