【書評】『夏目漱石 美術を見る眼』朝日新聞時代の夏目漱石は歯に衣着せぬ辛口批評家だった
NEWSポストセブン / 2025年1月30日 11時15分
【書評】『夏目漱石 美術を見る眼』/ホンダ・アキノ・著/平凡社/2750円
【評者】嵐山光三郎(作家)
明治四十年、四十歳の漱石は、東大教授を蹴って朝日新聞に入社した。大学では年俸八百円であったが、新聞社は月俸二百円と賞与年二回。毎日出社する必要はなく、小説を書けばよい。さっそく『虞美人草』の連載をはじめ、文芸欄を主宰して講演旅行もこなした。明治四十年には美術界では「文展」(旧日展)が発足して、美術記事もこなした。人気小説家が書く美術評はたとえば「生きた絵と死んだ絵」というタイトルでインパクトが強い。
漱石はベテランの旧派をコテンパンにけなして、独創的な新しさを発掘しようとした。権威ある美術館に飾られているだけが優れた作品ではなく、「落第の名誉を得た諸氏は、文展の向ふを張ってヒューザン会(落選展)を公開せよ」と提案した。この本には、漱石が批判した画壇大家の絵(図版)がずらりと出てくる。
気にいった山水画はディテイルをほめ「是が欲しいと思つた」と書く。なにしろ漱石ですからね。歯に衣着せぬ辛口批評を書かれた画家は、さぞかし腹がたっただろうが、漱石自身、作品をけなされる怖さを知っていた。
『吾輩は猫である』(第一回)が『ホトトギス』に掲載されたとき、評論家の大町桂月が「詩趣ある代りに、稚気あるを免れず」とけなすと、次回の『猫』で桂月の名を出して応酬した。美術記者としての漱石は視線がオリジナルで、目のつけどころが独特、自然、自由、無我無欲をよしとした。
漱石の美術記事を初めて読んだが、新聞記事となると、直情を過激に書く。美術記者としての使命感が強い。旧態依然としてマンネリズムの絵をコテンパンにけなした。漱石がこれほど美術評を書いていたことは知らなかった。評価を気にして媚を売る大家を嫌った。
漱石は自ら絵を描き、画家をモデルにした小説も多い。『二人の美術記者 井上靖と司馬遼太郎』で評判をよんだホンダ・アキノの第二弾。ホンダ・アキノ(女性)は凄腕だぞ。
※週刊ポスト2025年2月7日号
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