『潮騒のメモリー』の一節は偶然通りかかった坂本龍一が作曲

NEWSポストセブン / 2013年8月31日 16時0分

 NHKの朝ドラ「あまちゃん」の音楽担当・大友良英(54)。世界的に知られる現代音楽家、ノイズミュージシャンでもある。

 大友自身、学校で音楽を学んだ人ではない。作曲家で、映画史に残る映画音楽の数々を残した武満徹に誘われて一度だけ食事をしたとき、「大友さんは音楽教育を受けてきたんですか」といきなり聞かれた。

「たぶん受けてないと思ったんだろうね。『ゼロです』って言ったら武満さんも『私もそうなんですよ』って」

 高校時代にジャズにはまって以来、ほぼ独学で、いろんなジャンルの音楽を吸収してきた。

「たぶん聞いてきた音楽の幅の広さではだれにも負けないと思う」

 フリージャズや前衛音楽、ノイズミュージックに傾倒する一方、自分をかたちづくった音楽の記憶を探ると山下毅雄に行きついた。「プレイガール」や「スーパージェッター」「ジャイアントロボ」「ルパン三世」など多くのテレビ音楽をつくった作曲家だ。

「いいと思った音楽を探っていくと、山下毅雄っていう名前がいっぱい出てきた。知らずに聞いてたけど影響は大きくて、だからいま『あまちゃん』もできるんだと思うよ」

「あまちゃん」が始まったとき、オープニング曲を、スカだという人、クレージーキャッツ風という人、チャンチキやチンドンだという人、それぞれに言い表された。

「じつはぜんぶ合ってる。いろんな要素が入ってるから。『チャンチキトルネエド』(チンドン音楽のバンドで現在は活動休止中)と出会ったのは大きいね。オープニング曲にはスカのビートと日本のビートをまぜているけど、よく聞くとほんとのスカじゃない。ジャズのビートは入ってないのにクレージーキャッツっぽいのは、『タカラッラララララ』の適当な感じかな」

 懐かしい記憶を引き出され、聴いたことのない新しさを感じる。いまの時代に老若男女みんなが親しめる曲の秘密はこのあたりにあるのだろう。

 ワークショップでは大友手書きの楽譜のコピーが配られた。ほぼ主旋律だけのシンプルな譜面だ。作曲家がすべて決めるのではなく、奏者がそれぞれ工夫してアンサンブルをつくりだす。

「あまちゃん」の準テーマ曲ともいえる「潮騒のメモリー」も、共作曲者のSachiko M、アレンジャーの江藤直子、劇中で歌う小泉今日子と一緒にスタジオに入り、ああでもないこうでもないと言い合ってつくった。

 1980年代に流行ったアイドルの曲という設定なので、当時本物のアイドルだった小泉から、「80年代だったらこうなんじゃない?」と、サビの「♪激しく~」のアイデアが出た。ラストの「♪好きよ嫌いよ」も小泉で、終盤の「♪来てよタクシーつかまえて」の「つかまえて」は、たまたまスタジオを通りかかって演奏に加わった坂本龍一の作曲だ。演歌からモダンなポップスまで様々なコードを採りいれ、チームワークでつくったこの曲を、「自分の最高傑作」だと大友は言う。

「この人をここに置いたら必ず輝くとか、ぱっと出会ったときの勘だけはいい。だからプロデューサーの仕事ができるんだと思う」

取材・文■佐久間文子

※週刊ポスト2013年9月6日号

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