視聴率一桁でも「上質なサスペンス・ドラマ」女性作家が推薦

NEWSポストセブン / 2013年11月23日 16時0分

 視聴率がドラマの出来をはかる大きな物差しであることは間違いないが、さほど数字が出ていなくても「上質」なドラマはある。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がガイドする。

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 10月期のドラマも中盤にさしかかり、「自分にとって魅力的なドラマとは何なのか」をふと考えてみたくなる時期。視聴率の上位を眺めれば、「リーガルハイ」「相棒」「ドクターX」。ドラマが人気を集めるためには個性派なキャラが必要、そう言わんばかりの結果です。

 でも、際立ち個性派キャラの主人公と、今ひとつ相性があわない、そんな視聴者はどうすればいいのか。

 私にとって毎週見たくなるドラマは、また別のところにあります。AKIRA主役『ハニー・トラップ』(フジテレビ系 土曜日午後11時)。視聴率は一桁台。でも、かまわない。このドラマ、自分にとっての「上質のサスペンス」だから。

 何が際立つかといえば……まずスピード感。次々に場面が切り替わっていく。転がるようなスリル。ヒリヒリするような緊縛感に満ちている。

 物語の主人公は、先端素材の極秘情報を何者かに盗まれてしまった商社マン・美山悠一(AKIRA)。美山は必死に情報を取り戻そうとするが、次々に現れる罠。情報漏えい問題にメスを入れた、社会派アクションサスペンスです。

 産業スパイの駆け引き、仕掛けられたトラップ。複雑にからまった人間関係のむこうに、意外なドンデン返し。スピード感のある画面をつなぎあわせていくのは、躍動する肉体。AKIRAは走る。本気で走る。飛び越える。すり抜ける。すばやく隠れる。

 役者の見せ所は、セリフや表情だけではありません。鍛え抜いた肉体がいきいきと画面の中を横切ると、視聴者の目は惹きつけられる。

 古いビル、都会の交差点、大学のキャンパス、オフィス街……。ロケが多いことも、このドラマの特徴。実在の空間が産業スパイを扱うドラマのリアリティと緊張感を、ぐんと高める手助けになっている。

 そして、もう一つ「心憎い仕掛け」が。

 最初から、ドラマのある「到達点」のシーンを映し出す仕掛けが、効いています。AKIRAが裸で拷問されているシーン。それが冒頭に、毎回出てくる。たとえ主人公が一つの難局をうまく切り抜けたとしても、結局、最後にこのシーンが待っている。そう念を押すための仕掛け。

 だから、ピリピリとした緊張感が持続するのです。最後の一点に向かって、ドラマも視聴者もひた走っていく。筋だてが少々複雑で混乱したって大丈夫。着地点が見えているから、一緒に走っていける。上手な倒置法です。

 そもそも「サスペンス」とは何か。

 サスペンダーと言えば、ズボン吊りのこと。英語のsuspendedは「宙づり状態」の意味。犯人は誰か、動機は何か、意図は何か……明確なことはわからない。先の見えない“不安定”な状態に宙づりされるひととき。

 緊迫した娯楽性を視聴者に与えてくれる『ハニー・トラップ』は、その意味で、私にとっての「上質なサスペンス・ドラマ」なのです。

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