南部から北部に水を運ぶ中国プロジェクト 費用8兆円見込み

NEWSポストセブン / 2013年12月31日 16時0分

 水不足に悩む中国。特に北部は南部に比べ、水資源が乏しく問題は深刻だ。経済発展を何よりも優先してきた中国政府も、国家の存続を脅かす水問題に対応せざるを得ない。巨費を投じて推進してきたのが「南水北調」プロジェクトだ。簡単に言えばまだ水のある南部から北部に水を運ぼうという計画で、総計3000kmもの運河などを作る壮大な事業である。いかにも中国らしい発想だ。

『中国の環境政策〈南水北調〉』の著者で、中国の水問題に詳しい神戸女子大学教授の小林善文氏が解説する。

「江蘇省揚州付近の長江下流から天津や山東半島に運ぶ『東線工程』(全長1156km)、漢江上流にある丹江口ダムの水を北京や天津まで運ぶ『中線工程』(全長1246km)、長江やメコン川などの上流域と黄河の上流域をつなぐ『西線工程』の3ルートからなるプロジェクトです。西線はまだ計画段階ですが、東線と中線はほぼ完成し、一部で稼働しています」

 50年の完成を目指して工事が進められており、西線まで完成すれば北京市、山東省、河北省の年間水使用量に相当する年450億立方メートルの水を北部に運ぶことができるとされる。総工費は5000億元(8兆円)近くが見込まれていたが、小林氏は「全体でいったいいくらかかるのか、実際にはわからない」と指摘する。

「東線、中線だけで総額3250億元(約5兆円)が投じられている。未着工の西線ではさらに3000億元が見込まれ、6000億元は軽くオーバーする。しかも西線は海抜4000m級のチベット高原などに堤高300m級のダムや総延長200kmのトンネルを建設しなければならず、その施工は極めて困難。予定を上回るコストがかかることは容易に想像できる」

 それでも水不足が解消されるわけではない。小林氏が指摘する。

「北京市当局は中線の第1期、第2期の竣工に伴って年間32億立方メートルが送水され、地下水の汲み上げを4.33億立方メートル削減できるとみている。だが、その程度の量で拡大の一途をたどる地下水汲み上げを抑制できるかどうか疑問だ」

 資源・食糧問題研究所の柴田明夫氏も南水北調は水不足の解決につながらないと指摘する。

「長江と黄河の流量は17倍もの開きがある。豊富な長江の水を黄河に運ぶことは中国の悲願で、古代にも京杭大運河が開削された。しかし、標高の低い南部から標高の高い北部に水を運ぶとなると、ポンプで汲み上げるなど膨大なエネルギーを必要とする。さらに、運ぶ間の蒸発や水質汚染に加え、東線では運河に海水が入り込むなどして生態系が破壊される恐れもある」

 近年、長江の水量が減少し、もともと汚れた河川に海水が逆流して汚染が進んでいるという。汚れた水を送ることから、南水北調は“汚水北調”とも揶揄される。柴田氏は言う。

「中国政府は大掛かりな公共工事で供給を増やすことばかり考えているが、水資源問題の解決には、需要サイドの節水や有効利用、供給サイドの効率的なシステム、政策面での水資源確保という3方面からの対策が欠かせない。しかし中国では水管理が地方政府や役所の縦割り体質で分断されており、マクロ的なデータも政策もないのが実情で、解決にはほど遠い」

※SAPIO2014年1月号

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