【著者に訊け】鈴木おさむ著『美幸』 妻の虐め体験から着想

NEWSポストセブン / 2014年2月14日 7時0分

【著者に訊け】鈴木おさむ氏/『美幸』/角川書店/1365円

 例えばメールやLINEにはない、肉筆だけが宿す臨場感や痛みのようなもの。それをあえて小さな小屋で直に届けたくて、2012年秋、放送作家・鈴木おさむ氏は『鈴木おさむ劇場』を立ち上げた。その第1弾が山崎樹範・鳥居みゆき共演による2人芝居『美幸』だった。

 主人公の名は2002年に結婚した妻、森三中の大島美幸さんに由来。彼女がかつて受けたイジメに着想を得た物語を「同じ名前の人がどう受け止めるかにはいつも気を遣う」と鈴木氏は言う。

 このほど上梓された小説『美幸』でも話者は計3人。現在服役中の美幸が綴る手紙と、“被害者”として聴取を受ける元俳優〈雄星〉の供述、そして美幸の弁護にあたる〈矢島〉の弁論によって、事件の詳細が徐々に明らかになっていく。

 それは美幸が雄星のためを思って実行した〈復讐〉だった。それでいて見返りを求めない彼女の〈無償の愛〉が醸成された背景には、中学時代のイジメや16歳の時の過酷すぎる失恋があり、愛ゆえに復讐の鬼と化した美幸は果たして不幸なのか、それとも幸せなのか? 鈴木はこう語る。

「元々これは小説のつもりで書き始めたんですけど、一度舞台にした方が物語が強靭になる予感がしたんですね。僕は小説にもいろんな書き方があっていいと思うし、『これは私の物語だ』と言ってくれた鳥居みゆきを始め、演者や観客の命を吹き込まれた物語が単なるお話を超えたパワーを持ってくれるんじゃないかと。

 当時のことをネタにすることもあるうちの奥さんですが、僕がふざけて彼女を無視したら驚くくらい泣いたことがあるんです、『無視だけは絶対しないで下さい』って。苛められた人には一生消えない傷が刻まれるんだって僕自身反省したし、彼女にとってのお笑いに似たモチベーションをこの美幸にも見つけてほしかった」

 何事も〈平均点55点〉の美幸の人生が一変したのは中3の春のこと。普段から〈快話(かいわ)〉〈喜望(きぼう)〉〈楽笑(らくしょう)〉などと、自作の造語や好きな漢字を〈文字日記〉に書きためていた彼女の〈顔晴(がんばる)〉と書いた書が新聞社主催の書道展で絶賛され、〈天才書道少女現る〉と注目を浴びたのだ。

 先生や親は鼻高々だが、中には〈嫉妬〉する者もいることに幼い美幸は気づかなかった。仲のいい友達が急に冷たくなったり、彼女は顔も成績もいい〈和希〉らの陰湿なイジメの標的となった。波は後に男子にも広がった。

NEWSポストセブン

トピックスRSS

ランキング