足利事件の真犯人特定 捜査機関が動かなかった理由に迫る書

NEWSポストセブン / 2014年3月7日 7時0分

【書評】清水潔著「殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」/新潮社/1680円(税込)

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 * * *
 大変な問題作である。著者はかつて週刊誌記者だった時代、独自取材によって警察よりも早く「桶川ストーカー殺人事件」(1999年)の犯人を特定し、「伝説の記者」と呼ばれるが、本書で明かされる事実はそのとき以上に衝撃的だ。

 話は2007年6月に遡る。1979年から1996年までの間に、栃木・群馬の県境で5件の幼女誘拐殺人事件が起きていた。極めて特異な現象であり、内容の類似性を考えると、同一犯による連続犯行が疑われる。著者はそれを「北関東連続幼女誘拐殺人事件」と名付けた。

 だが、その見立てには重大な欠陥があった。他の4件は未解決だが、4件目の「足利事件」(1990年)は犯人として菅家利和さんが逮捕され、無期懲役が確定していたからだ。しかし、著者は強い違和感を覚えた。もしも菅家さんが冤罪だったら? やはり5つの事件に連続性が疑われ、〈真犯人は、今もどこかで平然と暮らしている〉ことになる。そんなことがあってはならない、との思いに駆られた著者は徹底した調査と取材を始めた。

 周知のように、逮捕の決め手となったDNA型鑑定についてのちに再鑑定が行なわれた結果、菅家さんは犯人ではないことが証明され、再審が開かれて2010年3月に無罪が確定した。著者は所属する日本テレビの番組で、メディアのなかで最初に、そして一貫して自供やDNA型鑑定の問題点を指摘するキャンペーンを張った。

 著者が調査と取材を行なううちに、自供が誘導、強制によるものだったことばかりか、捜査過程で真犯人の存在を示唆する重大な目撃証言が無視されたこと、警察の嘘のリークに基づいて「菅家さんは大量のロリコンビデオを所有していた」と報道されたが実際には1本も持っていなかったことなどが明らかになった。

 警察のDNA型鑑定とその読み取り方の信頼性にも重大な疑義が生じた。そして、再鑑定や再審の過程では、鑑定のための証拠品の管理が実に杜撰だったことなど、当初のDNA型鑑定の非科学性が浮き彫りになった。

 だが、著者の最終目的は足利事件の冤罪証明ではない。真犯人の逮捕だ。実は著者は、5つの事件の真犯人と思しき人物を特定し、本人を取材し、そのことを本書はもちろん、以前からテレビ番組や雑誌などで報じてきた。それらが反響を呼び、2011年に参議院予算委員会で5つの事件が取り上げられ、国家公安委員長が同一犯の可能性に言及した。にもかかわらず、捜査機関は動いていない。なぜか?

 足利事件で採用されたDNA型鑑定は信頼性が低いことが明らかになったが、実はそれと同じ鑑定方法が出した結論によって逮捕され、死刑判決が下され、刑が執行された事件がある。事件名やその内容は本書に譲るが、もしも5つの事件の真犯人を追及すれば、すでに死刑執行された事件が冤罪の疑いのあるものとして注目されてしまう。そんな〈爆弾〉を抱え込みたくない。

 だから、国は「北関東連続幼女誘拐殺人事件」を闇に葬り去ろうとしているのだ、と著者は告発する。著者は問う。〈殺人犯がそこにいる。罪を問われず、贖うこともなく、平然と。司法機関はそれを放置するのか? 法治国家にとって、これ以上の問いは存在するのか〉と。国家は人命の尊重よりも、真実の追求よりも、正義の実現よりも、自らの無謬性に拘り、自己防衛することを優先するのか。だとしたら慄然とする。

※SAPIO2014年3月号

NEWSポストセブン

トピックスRSS

ランキング