「万里の堤防」防潮堤事業 いくらでもカネ出る打出の小槌

NEWSポストセブン / 2014年3月20日 16時0分

  被災地で一番進んでいる工事は「防潮堤」だ。住民の反対・困惑をよそに膨大な予算がつき、東北の海岸には次々にコンクリートが流し込まれている。街も道もなく人もいない荒野を見下ろす巨大な壁が守るのは、カネに群がる政治家と役人ではないのか。ジャーナリストの武冨薫氏が被災地の実情をレポートする。

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 津波で大きな被害を受けた気仙沼市本吉町の海岸では、雪が舞う中、わずかに残った松の隣で大型ショベルカーが唸りを上げて砂浜を掘り起こし、高さ約10mの長大な防潮堤の建設が進んでいる。

 岩手・宮城・福島3県の沿岸を総延長400km近くにわたってコンクリート堤防で覆う総事業費約8500億円の“万里の堤防”計画だ。

 宮城県内で最も高い14.7mが建設される本吉町小泉地区は家も道路も津波に流され、高台移転が決まっているため住民はいない。松島湾では「農地保護」を名目に20億円かけて無人島の耕作放棄地まで防潮堤で囲われる計画だ。

 一体、何を守るための堤防なのか。各地の住民からは防潮堤建設への疑問の声が上がっている。一部で高さが見直されているものの、基本的には国も自治体も計画をゴリ推しする姿勢だ。

 被災地の防潮堤は国が方針を決め、「海岸管理者」=県(一部は市町村)が計画を決めることになっている。それを国が査定し、予算は97~98%(地域によっては100%)国が負担する。

 震災後、政府は国土交通省と農林水産省の課長通知(2011年7月)で、復旧・建設する防潮堤を明治三陸沖地震など「レベル1」(L1)と呼ばれる「数十年から百数十年に1度」の規模の津波を防ぐ高さにする基準を定めた。

 例えば、気仙沼湾の奥に位置する鮪立(しびたち)地区では町史に明治三陸沖津波の高さが4mと記録されている。だが、県の担当者が説明会で示した防潮堤は2倍以上の9.9m。 「5mで十分」という住民たちの声に、県側は、「L1の津波を想定したシミュレーションの結果だ」と押し切った。

 宮城県の村井嘉浩知事も会見で各地の住民の要望に対しこう強調した。

「住民の皆さんが『この高さがいい』と言っても、どう考えても命を守れない場合は、分かりましたとは言えない」

 さる2月15日には“ハイテク堤防”の建設も決まった。宮城県の気仙沼湾内湾地区では4.1mのコンクリート堤防の上に、津波の際には水圧で高さ1mの鋼鉄製の扉が自動的に立ち上がる「フラップゲート」を付ける仕組みを採用することになった。堤防の内側は2.8m盛り土されるため、見かけの防潮堤高は胸の高さほどの1.3mになる。フラップゲートの工事費は1mあたり約250万円とコンクリートの25倍になる。

 防潮堤事業は「命を守るため」と言えば、いくらでもカネを使える打出の小槌なのだ。  東京大学生産技術研究所の太田浩史講師(都市再生学)は「防潮堤ありき」の復興事業をこう批判する。

「津波防災には、高台移転や防災道路などいろいろな方法がある。防潮堤はあくまで選択肢のひとつ。本来なら各地で防災計画、避難計画を先に策定すべきだったのに、国の中央防災会議は3.11の直後(2011年6月)に防潮堤建設を提言し、震災から半年後には各地で建設計画がまとめられた。

 急いで決めたからシミュレーションは粗いし、高さの根拠も不十分。自治体は防潮堤建設を前提に災害危険区域を指定したから、高さを変更すると防災計画全体を見直さなければならない。だから頑なに計画の高さを変えようとしない」

※SAPIO2014年4月号

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