【著者に訊け】泉麻人の散歩手引決定版『大東京23区散歩』

NEWSポストセブン / 2014年5月15日 7時0分

【著者に訊け】泉麻人氏/『大東京23区散歩』/講談社/2400円+税

〈東京はちょっと目を離したスキに変わってしまう〉と、泉麻人氏は書く。特に東日本大震災を機に建物の改築や再開発が進む今、〈防災と文化の一致〉というのは本当に難しいと。

〈開発されちゃったら、あっさり諦める──というのが私の信条です。変わってしまったからこそ、古い町並を記録した写真集を眺める愉しみも生まれます〉

 さすがは達人だ。失意や郷愁は極力胸に留め、今あるものを淡々と見て、町を流す──。それでこそ本書『大東京23区散歩』は平成26年の町の記録たりえた。千代田区から江戸川区までを螺旋状に歩くこの試みは2009年から丸4年を費やし、現状確認にはさらに1年をかけた念の入れようである。いうなれば東京愛の脱構築。いや、一々大仰に構えないのが、泉流なのだった。

 泉氏にとって東京は地元。昭和31年新宿区落合に生まれ、港区三田の慶應義塾に通い、中央区旧小田原町のビルの一室で雑誌の編集に明け暮れた会社員時代にはこんな思い出も。

〈あるとき、大きなゴキブリが出現、私がブリキのゴミ箱で見事に掬いとりました。そこまでは良かったものの、窓からなかのゴキブリだけ外に放り出そうとして、うっかりゴミ箱ごと川に放り投げてしまった……そんな築地川もいつしか埋められてしまいました。いま駐車場になっている地底に、あのゴキブリとゴミ箱が埋没している幻想がふと浮かびます〉

「散歩する以上“町対自分”の目線で歩きたいですから。ただしこのゴミ箱の件も築地川の暗渠化を語るのに最適だから書いただけで、終始散歩のリズムは大事にしたつもり。一々思い出に浸っていられるほど、23区踏破は甘くない!(笑い)」

 本書は1985年『東京23区物語』以来の集大成ではあるが、各区の人種の違いを一部虚構も交えてシニカルに論じた同書から手法自体変えさせるほど、今の東京は〈平板化〉していたという。

「それこそ30年前は隅田川を渡ると急にパンチパーマ人口が増える分布図一つにも、説得力があった(笑い)。でも今は東京の西も東も駅前は大して変わらないし、井沢八郎『あゝ上野駅』に歌われた改札の正面が自由が丘発祥の『ザ・ガーデン』だったりする。かなり細部まで歩かないと違いを楽しめないんです。

 特に最近は歳のせいか神社仏閣や史跡にも足が向き、例えばそこで鷹狩りをした将軍一行の様子を、僕はかつて新小岩の駅前に屯(たむろ)するヤンキーの物語を想像したのと同じように妄想するわけです」

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