平幹二朗 狂気につかれた異形の人間を「好きな役」と演じる

NEWSポストセブン / 2014年7月13日 7時0分

 端正な容姿とすらりとした姿で注目を浴びた俳優座でのデビューから半世紀以上の時を経て、俳優・平幹二朗は狂気にとりつかれた人間をよく演じる役者としても知られるようになった。異形の人間を演じることについて平が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。

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 平幹二朗は1978年、蜷川幸雄演出の『王女メディア』に主演している。人形作家の辻村ジュサブローがデザインした、乳房を剥き出しにしたような毒衣装に身を包んだ異形の女形の姿は、観客に衝撃を与えている。

「その前に坂東玉三郎さんと『マクベス』をやりましてね。僕がマクベスで玉三郎さんがマクベス夫人でした。その時、僕は一生懸命に台詞を言っていたのですが、前の客席に目が行ったらご婦人方が台詞を言っている僕を見ないで、ジッと耐えている玉三郎さんを見ているんです。

 それは玉さんの美しさはもちろんあるのですが、ジェンダーを超えた存在の摩訶不思議な感じが好奇の目を引くんだと思いました。それで、僕も女形をやってみたくなったんです。

 というのは、古典劇をやる時、解釈上の間違いがないように文献を紐解いたりして正しく演じようとする自分に壁を感じていまして。それを打ち破るにはジェンダーを変えるのも一つの方法だと。女を演じる場合、全ての一挙手一投足に新たな意識を持ってやらなきゃならないですから。
 
 だけど、僕は大きすぎるし、日本舞踊の素養があるわけでもない。でも『王女メディア』なら、女の恐ろしさの極限をやり方によっては僕の肉体でもできるんじゃないかと。

 演技としては、泣き叫んで舞台を転げ回るとか、女形では本来やるようなことではないことを、あえてやろうとしました」

 平は舞台以外でも大河ドラマ『武田信玄』の信虎や『信長』の加納随天など、狂気に憑(つ)かれた異形の人間を多く演じてきた。

「そういう役って好きなんです。耽美的な役とか執念に固まっている役とか。僕の志向としてはコミカルではなく怪奇的にしたい。その人間の持っている、感じられる悲しみを探ろうとします。それが見つかると、役作りが面白くなってくるんですよね。

 僕は自分では自分の言葉で内面を外に出すことができません。そこに役という仮面があると自分の内面が自由に動き出すんです。仮面があることで安心して、悪い衝動も毒々しい衝動も、悲しみも、そういうものが全てマグマのように噴き出してくるんです。僕の中に持っていたものが、この時とばかりに押し出されてくる感じはありますね。
 
 ですから、まがまがしい役をやる時って、工夫するのに苦労した記憶はないんです。そういうものが一瞬湧いて拡大していくと、面白く転がっていくというか。

 それから、DVDを僕はよく見ます。人間の毒々しさを描いた映画を観た時、刺激するものが残るのですが、自分の中で迷った時にその記憶が役に立つ。

 蜷川さんと『リア王』をやった時は稽古の時からあまりOKが出ませんでした。そんな時に自分の過去に見た映画の記憶から探して『俺はブルーノ・ガンツなんだ』と思うことにしたんです。それで舞台に出たら、上手くスゥーっと行きました。

 平幹二朗がやっていると思うと恥ずかしいことでも、他の俳優がやっていると思えば何でもできます。たとえば、ショーン・ペンならもっと派手なことをやるだろうな、とか」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。

※週刊ポスト2014年7月18日号

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