ウォルフレン氏 日本人は「プーチン=悪」の米宣伝信じ込む

NEWSポストセブン / 2014年11月19日 16時0分

 30年以上にわたって日本政治を研究してきたカレル・ヴァン・ウォルフレン氏(アムステルダム大学名誉教授)は安倍政権の「官邸主導」は日本の大メディアと官僚が作り上げた虚構だと指摘する。
 
 記者クラブ制度をはじめ数々の既得権を持つ大メディアにとっては「現状維持」が望ましいが、この点でメディアと官僚の利益が一致、安倍首相が何かを決断しているかのような虚構を国民に振りまいているというのだ。ウォルフレン氏はこうした「現状維持中毒者」が日本を危うくすると警鐘を鳴らす。

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 日本国民は「虚構」の存在に気付き、現状を打破するために声をあげなければならない。現在の世界情勢は「現状維持中毒者」による意思決定で乗り切れるほど甘くはないからだ。

 米ソ冷戦の時代は、確かに核戦争の恐怖は存在したが、その一方でバランスの取れた「予測可能な世界」であったとみることもできる。日本は共産主義の脅威から逃れるために、ひたすらアメリカに付き従っていれば良かった。

 その後ソ連が崩壊して冷戦が終結した時、多くの人々は民主主義に基づく理想的な世界が訪れることを期待した。だが、現実は違った。アメリカの権力者は、新しい敵を必要とし続けた。そして米軍はイラクやアフガニスタンの泥沼に足を踏み入れていった。

 現状維持を志向するメディアと官僚は「ひたすらアメリカに付き従えばいい」という冷戦時代そのままの価値観を流布しようとするが、それを信じれば国益が著しく損なわれることになる。

 今年勃発したウクライナ危機が日本でどう報じられたかを見るだけでもそれはよくわかる。日本では、民主化運動の盛り上がりによってウクライナ国内に混乱が生じた隙に、ロシアのプーチン大統領がクリミアを併合して領土の拡大を図った、と理解されている。

 しかし、真実は全く違う。ウクライナ危機は、アメリカが中央ヨーロッパやアジア地域での支配権強化を目論んでいるがゆえに起きたものだ。

 アメリカの意図は、経済的な結びつきを強めるドイツを筆頭とする欧州とロシアの関係を分断することにあった。ウクライナの親露的な政府を転覆させるために、右翼勢力に資金援助を行なったのである。その結果、(腐敗はしていたが)民主的に選ばれた政権が、クーデターによって倒された。欧州各国はアメリカのやり口を好ましくないと思いつつも、アメリカに従ってロシア制裁の道を選択してしまった。

 日本ではそうしたアメリカのプロパガンダがそのまま、官僚やメディアによってバラ撒かれた。「プーチン大統領は『悪』で、世界にとって脅威だ」と情報操作され、多くの日本人はそれを信じてしまっているのだ。

 戦後70年、日本政治のトップを占めるエリートたちは、アメリカの要求や要望に対して、時折反抗的な態度を見せながらも、最終的には隷属国としての振る舞いから外れないように政策決定してきた。安倍政権はそうした慣習を忠実に守っている。

 アメリカの権力者にとっては冷戦時代のような緊張状態は大変好ましいもので、「旧敵は決して消滅していない」と西側諸国に信じさせたい。だが、そうした緊張状態はいとも簡単に武力衝突を招き、世界に不幸をもたらす。日本人はそんな事態を本当に望んでいるのだろうか。

【プロフィール】1941年、オランダ生まれ。ジャーナリスト、政治学者。NRCハンデルスブラット紙の東アジア特派員、日本外国特派員協会会長を歴任。『日本/権力構造の謎』『人間を幸福にしない日本というシステム』などのベストセラーで知られる。

※週刊ポスト2014年11月28日号

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