【著者に訊け】東山彰良氏 直木賞受賞第一作『罪の終わり』

NEWSポストセブン / 2016年7月1日 7時0分

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2015年に『流』で直木賞を受賞した東山彰良氏

【著者に訊け】東山彰良氏/『罪の終わり』/新潮社/1500円+税

 その出来事の前と後とで、世界が一変するほどの事件や災害。東山彰良氏の『罪の終わり』でいう〈六・一六〉もまた、新たな救世主が待望されるには十分すぎる災厄だった。

 舞台は22世紀のアメリカ大陸。2173年6月16日、〈ナイチンゲール小惑星〉落下に伴う地殻変動や気温低下で食糧事情は逼迫し、東部政府は全長900kmに及ぶ〈キャンディ線〉以東に保護を限定、それ以外の地域では〈食人〉すら常態化する極限状況に陥った。

 本作では台湾に生まれ、米国人夫婦の養子となった〈ネイサン・バラード〉を話者に、彼が六・一六後の世界に君臨する〈ナサニエル・ヘイレン〉と、稀代の食人鬼〈ダニー・レヴンワース〉の行方を追った日々を振り返る。〈白聖書派教会〉から2人の処分を命じられた彼は、ナサニエルの謎に満ちた生涯を書き綴り、読者はその評伝を読むという形を取るのである。

 なぜ一介の不幸な青年が〈黒騎士〉として崇められ、信仰の対象となり得たのか。神話にはそれを求める時代と、絶望が必要らしい。

 実はナサニエルの名は、『ブラックライダー』(2013年)に既に登場している。六・一六から数十年、その名も「ヘイレン法」が食人を公に禁じた世界に暗躍する黒騎士の、初代の名として。

「そこでは伝説の男として登場する程度ですが、僕自身がナサニエルのことをもっと知りたくなって、実は直木賞を頂いた『流』が出る前には初稿を書き上げていました。受賞作との違いに驚く方もいると思いますが、作家は誰しも自分が読みたい物語を書いている部分があるし、フィクションとして純粋に楽しんでいただければ、それで十分です」

 欧文の表題には「JESUS WALKING ON THE WATER」とあり、評伝の作者ネイサンはキリストが湖上を歩いたとされる奇蹟にナサニエルの伝説をなぞらえている。

〈イエスは世界に失望した人々の希望であり、生きるよすがだった〉
〈ナサニエル・ヘイレンという若者もしかりである。彼が母親を殺したという事実も、彼の神格化とけっして無関係ではない。黒騎士の存在は、人間はだれしも罪を背負っており、その罪はきちんと償うことができるのだという人々の願望を反映しているのだ〉

 生きるために人を食らい、それでも神に愛されたいと願う人々から救世主に祀り上げられたナサニエルは、実際はどんな生い立ちを持ち、なぜ母を殺したのか。事実を追うネイサン自身、女性を監禁して生きたまま火を放ち、自慰に耽った牧師の11人目の被害者として妻を失っていた。標的を追い南部や西部の現実を目の当たりにし、飢えを満たすための殺人には真理すら覚えた彼も、牧師の性癖に感じるのは不条理でしかない。

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