天皇陛下のタヌキの糞研究 「凄い研究成果」と専門家

NEWSポストセブン / 2016年10月26日 16時0分

写真

261週間にわたってタヌキの糞を調査された

 8月にビデオメッセージで生前退位の意向を明らかにして以来、天皇の周辺は騒がしくなった。そんな中、10月6日に宮内庁が新たなニュースとして発表したのは、陛下が長期にわたりタヌキの食性を調べ、その論文が「国立科学博物館研究報告」(8月22日発行)に掲載されたという内容だ。

 欧米のロイヤルファミリーは、“上流階級の嗜み”として研究者としての一面も持つ。天皇家もそれぞれの研究分野を持つ。

 昭和天皇は植物の菌などを研究する生物学者として多くの論文を発表した。今上天皇はハゼの研究者として知られ、新種の発見は8種類に及ぶ。皇太子は交通史を中心とした歴史学、秋篠宮はナマズの生態の研究で論文を執筆している。

 天皇は、1996年からは皇居の動植物の調査に乗り出し、そのなかでタヌキに興味を持たれた。論文の〈初めに〉にはこうある。

〈タヌキはイヌ科の肉食種で、北海道と沖縄以外の日本全土に分布し、古くからなじみのある動物として知られている。東京都では1950年代までは都心部でも捕獲例があったが、都市化の進行に伴い、1970年代には東京都の西部にまで分布が後退したとされている。だが、最近、東京周辺での生息報告が劇的に増加している。皇居のタヌキは、1990年代半ばから、皇宮警察職員によって報告されている〉

『タヌキ学入門』(誠文堂新光社刊)の著者で麻布大学いのちの博物館上席学芸員の高槻成紀氏が解説する。

「戦後の復興のなかで、東京近郊の野生動物は住処を失い、1964年の東京五輪の後はそれまで生息していたキツネもいなくなり、タヌキだけが人に寄り添いながら生き延びた野生動物です。その“普通の動物”を対象とされたことに、日本の自然に対する陛下の深い愛が感じられます」

 天皇は261週間にわたってタヌキの糞の調査を行ない、164個の糞を採取。その結果、58の分類群の種子が見つかり、タヌキが食べた昆虫の死骸などから偶然採取されたと思われるものを除いた〈35種の分類群が皇居のタヌキの主な植物質の食源を示している〉ことを明らかにした。これも専門家からすると「凄い研究成果」なのだという。

「糞から検出された種子が種または属まで識別され、その数が58に及んでいる。これは一か所の溜糞場での結果として破格の値です。さらに感心させられたのは、『同定不能』として、名前がわからない種の数も挙げていること。ここに陛下の研究者としての厳しさと、誠実なお人柄が反映されているように思えました」(高槻氏)

 論文では5年間にわたってタヌキの食性に大きな変化はなかったと結論づけているが、それこそが重要なのだという。

「タヌキの食性は調査した年、あるいは場所によっても大きく異なる。その柔軟性が特性です。食性が5年間安定していたというのは、皇居の森林に安定した食物供給力があることを示しています。また、単に食べ物を解明しただけでなく、タヌキの生き方を皇居の森林の特徴と結びつけた点に大きな意味があります」(同前)

 2003年1月に前立腺がんの手術、2012年2月に心臓のバイパス手術を受けた天皇は、体調不安を抱えながらも、東日本大震災の被災地訪問(2011年)や、パラオ(2015年)などへの慰霊の旅を続けてきた。

 そうした天皇としての公務と並行して、研究者としての探究心と好奇心を究めるバイタリティには畏れ入るばかりである。

※週刊ポスト2016年11月4日号

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング