酒は「百薬の長」か「万病の元」か どちらが正しいのか

NEWSポストセブン / 2017年4月20日 16時0分

写真

適度に飲むべき? 一滴も飲まないべき?

「酒は百薬の長」とは、中国の歴史書『漢書』にある言葉で、〈酒は多くの薬の中で最もすぐれており、めでたい会合で嗜むよきものである〉(広辞苑)という意味だ。

 これを医学的に裏付けたのが英国のマーモット博士らが1981年に発表した「酒を全く飲まない人や、飲み過ぎる人より、適度に飲む方が死亡率が低い」(U字型死亡曲線)という研究結果だった。

 その研究は米国の疫学調査などでも認められて国際的な通説とされた。日本の男性では1日のアルコール摂取量10~19グラムが最も死亡率が低く、厚労省主導の国民健康推進運動・健康日本21では日本人の「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコールで約20グラム程度を推奨している。

 サッポロビールのHPではアルコール20グラムの目安として、

・ビール中瓶1本
・日本酒1合
・ワイン4分の1本
・缶チューハイ1.5缶
・ウイスキーダブル1杯

 をあげている。

 ところが、その後の研究で飲酒への風向きが変わる。WHO(国際保健機関)の下部機関「国際がん研究機関(IARC)」は、アルコールは口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がんの原因になるとしてアルコール飲料の発がん性リスクを「喫煙」「ヒ素」などと同じ最も高いグループ1に分類(1987年)、2007年には酒が原因で発生するがんに結腸、直腸がんと女性の乳がんが追加された。

 これに基づいてWHOは、「日常的な適量飲酒」も、「たまの危険飲酒」も、「全世界的な公衆衛生上の問題を引き起こす」として飲酒を喫煙に次ぐ疾病リスクに位置づけ、アルコール世界戦略(飲酒規制)を推進していくのである。

 つまり、酒は百薬の長ではなく「万病(がん)の元」という主張だ。

 日本では国立がん研究センターがIARCの研究の結果が日本人に当てはまるかを評価研究し、確実にアルコールの影響があるのは「肝臓がん」「大腸がん」「食道がん」で、肺がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がんなどは「データ不十分」としている。

「適量の飲酒」は百薬の長で死亡率を下げるのか、それとも、「酒は万病の元」で1滴も飲まない方が健康にいいのか、対立する2つの医学的根拠を突きつけられても、どちらが正しいのか判断に苦しむ。

 興味深い比較評価がある。九州大学大学院予防医学分野の松尾恵太郎・教授は論文『がんリスクとしての飲酒習慣』(2014年)の中で、非飲酒者と飲酒量別のがん死亡率の研究を比較調査し、男性の場合、「適量飲酒」の方が非飲酒者よりがん死亡リスクが統計的に有意に下がっているとしてこう指摘している。

〈単純な飲酒の禁止が、良好な健康影響をもたらすわけではないという事を示唆すると言えよう〉

 酒と健康をめぐる議論の決着はまだ先になりそうだ。

※週刊ポスト2017年4月28日号

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング