【書評】ぼっちを貫く孤高の芥川賞作家・田中慎弥の言葉
NEWSポストセブン / 2017年4月26日 7時0分
【書評】『孤独論 逃げよ、生きよ』/田中慎弥・著/徳間書店/1080円
【評者】伊藤和弘(フリーライター)
田中慎弥といえば“ニートの星”。2012年に芥川賞を受賞したとき「もらっといてやる」と言い放って強烈な印象を残したが、同時にその経歴も注目された。高校を卒業してから新人賞を受賞する33才まで、実に15年間にわたって実家で「引きこもり」を続け、アルバイトもしたことがなかったという。現在は東京で一人暮らし。パソコンもケータイも持たないので、インターネットで他者とつながることもない。まさに“ぼっち”にかけては筋金入りの著者による『孤独論』だ。
今の時代、多くの人が“奴隷”になっている、と著者はいう。奴隷とは、〈有形無形の外圧によって思考停止に立たされた人〉。少し前に電通社員の過労自殺が論議となったが、過酷な労働を強いられる人だけに限らない。サークルや近所づきあいでも、「おかしい」と思うことがあっても深く考えずに流している人は、“思考停止した奴隷“ということになる。
さらに、現代人の多くは「情報の奴隷」になっているとも指摘する。
〈奴隷になっているから、インターネット端末であるスマートフォンやタブレットが手元にないと、落ち着いて過ごせない〉
情報は確かに重要だが、それほど大量の情報が本当に必要なのか? 現代人に不可欠とされるデジタル機器を一切持たない著者は、「王様は裸だ!」と容赦なく指摘する。では、奴隷状態から抜け出すにはどうすればいいのだろう? 〈やるべきことはひとつ。いまいる場所から逃げることです〉と著者はいい切る。
つらくて苦しいだけの会社は思い切って辞める。同調圧力が強く、自由に意見も言えないグループとは距離を置く。ヒマさえあればスマホを取り出す習慣を改める。その上で自分の人生を振り返り、本当は何をしたいのかを「自分の頭で考える」ことが大切だという。
最近の若者は“ぼっち”と見られることを異様に恐れ、トイレでこっそり食事をとる者もいるらしい。ブラック企業や楽しくもないつきあいから逃れられないのも、「孤独」になることを恐れる心理が働くのかもしれない。しかし、〈惰性を逃れ、奴隷を逃れるには、孤独が不可欠〉だ。
昔も今も“ぼっち”を貫く孤高の芥川賞作家の言葉には強い説得力がある。とはいえ、その言葉がすべて正しいとは限らない。読んだ上でどう感じるか、改めて「自分の頭で考えて」みるべきだろう。
※女性セブン2017年5月4日号
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