白鵬の「さあ来いよ」ポーズと「猫だまし」こそ強さの証

NEWSポストセブン / 2017年8月5日 7時0分

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貴景勝の度胸の良さも大きな魅力(写真:時事通信フォト)

 相撲ブームが沸騰している。「謎のスー女」こと尾崎しのぶ氏が、現在相撲コラムを週刊ポストで執筆中。今回は、大きな話題となっている将棋の藤井聡太四段と、相撲界の期待の星・貴景勝について尾崎氏が綴る。

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 七月十二日、名古屋場所四日目。かわいらしい少年がテレビに映し出された。お弁当を頬張っているその人は、将棋界最多の二十九連勝を達成した最年少棋士、藤井聡太四段だった。前日大阪で行われた対局に勝利しベスト8入りした、と新聞で読んだばかりだったから、今日はお休みなのか、と見つめる。

 たのしげにうなずく笑顔は、藤井四段の将棋での活躍を報じるニュースとは大違い。私は「そうだよね、まだ十四歳だもんね」とほほえんでしまう。

 なんでも藤井四段は、小学校の卒業アルバムに「将棋界の横綱になりたい」と書いたほどの相撲好きであるという。幕内の取組一番ずつに、かたわらにいる師匠・杉本昌隆七段と身振りを交えながら熱く語り合っている。私は将棋のことはまったく知らないのだが、藤井四段は時の人。とてもすごい人。そんな藤井四段と同じことに深い興味を私も持っている。相撲が大好きということにおいて仲間なのだと思えて、うれしくなってしまう。

 前日までの三日間で、すでに鶴竜は一敗、稀勢の里と日馬富士は二敗している。ボロボロの横綱、大関陣で唯一黒星がない白鵬の相撲は、この日も、いや、この日は、と言ったほうが正しいかもしれない特別な、少なくとも私が相撲を見始めてから初めての、妙なものであった。

 挑戦者は、元気な相撲が目立っている二十歳の貴景勝。気の強さがみなぎっている表情が実にいい。当たっていなし、引いては押し、徹底して距離を取る戦法。両者が動きを止めしばらくにらみ合った後に、白鵬の不思議なショーが始まった。

 肩を揺らし上半身の力を抜き、さあ来いよ、と言わんばかりに大きく胸を広げた。私は「えっ猪木?」と首をかしげてしまった。笑いすぎて「無理無理! もう勘弁して」と叫んだころ、貴景勝は白鵬の胸に吸い込まれていった。

 取組終了後、白鵬は「藤井四段におもしろいものを見せられてよかった」と語った。おもしろ相撲であったと、白鵬は自覚していた。若手の意外な抵抗に一時は熱くなったものの最後は冷静に寄り切ったのだから、万全な相撲であったと見ることもできるのだが、おもしろいにも程がある。

 力強い相撲で数々の記録を達成している白鵬だが、おそらく私が後年になって思い出すのはこの日の白鵬の姿だろう。あるいは二〇一五年十一月場所での、栃煌山への猫だましかもしれない。それは、白鵬が強すぎる証拠に他ならない。いつも強くて淡々と勝っているから、そうではない行動に「えっ?  なにやっちゃってるの横綱!」とおどろくと、忘れられなくなる。

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