【著者に訊け】北野新太氏 将棋棋士描く『等身の棋士』

NEWSポストセブン / 2018年3月2日 16時0分

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『等身の棋士』を著した北野新太氏

【著者に訊け】北野新太氏/『等身の棋士』/ミシマ社/1600円+税

 いわゆる新聞記者の文章でも、将棋記者のそれでもなく、何かが懐かしかった。この感覚、何だっけ、と思いながら読み進むうち、ピンとくる記述を見つけた。史上最年少の14歳2か月でデビューして早々、破竹の29連勝を記録した藤井聡太四段(当時)を取材した際、かつて羽生善治永世七冠も愛読したという沢木耕太郎著『深夜特急』を、著者・北野新太氏が贈るくだりだ。

 聞けば中学の時に読んだ『一瞬の夏』に衝撃を受け、大学時代は「沢木さん会いたさに『SWITCH』編集部でバイトまで始めた」という彼は、卒業後、報知新聞へ。現在は同文化社会部の将棋担当として千駄ヶ谷の将棋会館に通う。

 本書『等身の棋士』は、ウェブ連載「いささか私的すぎる取材後記」等を抜粋したエッセイ集だが、勝負師の孤独に寄り添い、横顔を伝える著者の感性こそが、類著にはない個性を放つ。

 羽生善治、渡辺明、加藤一二三、木村一基、中村太地などなど、そこには棋士がいて、書き手である〈私〉がいた。両者の間に生じた言葉にならない空気までが伝わってくる、2014~2017年の将棋クロニクルである。

「元々僕は大学までバスケ部で、2005年に会社員を経て棋士になられた瀬川晶司五段を取材するまでは、将棋と全く縁のない人間でした。でも今は将棋担当でよかったと思う。例えば巨人軍担当だった20代の頃は華々しく活躍する選手を見ながら、その光の中にいない自分に忸怩たる思いがあった。スポーツをやる自分と書く自分の距離感がうまく掴めなかったんです。でも、将棋はド素人なので彼らと自分を比べようという発想自体ないんです(笑い)」

 まず一章「神域へ」では、「藤井について語る時に羽生の語ること」や本人との一問一答など、先日新六段となった藤井の凄さを多角的に取材。例えば詰将棋同様、実戦でも美を追求するかと問われ、〈派手な手と『地味だけど最善手』という兼ね合いはとても難しいと思います〉と答えた藤井は、〈局面評価は究極的には1か0かマイナス1の三つしかないので、いくら形勢が縮まったように見えても、ずっと1(の局面)を保っていれば問題ない〉と冷静に言ってのけた。

 また史上5人目の中学生棋士は50mを6秒台で走り、小4で『竜馬がゆく』を読破した文武両道の人でもあり、〈見えない景色を見る位置まで行けるよう頑張らないと〉と抱負を語るのだ。

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