立川談笑の改作『らくだ』 驚愕のロジックで後日談へつなぐ
NEWSポストセブン / 2018年4月13日 16時0分

談笑ならではのロジックに脱帽
音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、改作落語で知られる立川談笑による『らくだ』改作と後日談における、談笑ならではのロジックの存在についてお届けする。
* * *
立川談笑と言えば改作落語。たとえば2月14日の「談笑月例独演会」(東京・博品館劇場)で演じた彼の『鰍沢』はこういう噺だ。
吉原の月の兎花魁は平吉という客に無理心中を仕掛けられたが、何とか逃れて甲州の山奥で猟師の熊蔵と結婚し、お熊と名乗って平穏な日々を過ごしていた。ところが大雪の晩、道に迷った旅人を迎え入れてみると、執念深く月の兎を探していた平吉で、この男が熊蔵を殺そうと玉子酒に毒を入れ、熊蔵はそれを飲んでしまう。お熊は、無理やり江戸に連れ戻そうとする平吉に銃を向けて追い出すが、平吉は大声で「月の兎がここにいるって役人に届けてやる!」と捨て台詞。それを聞いたお熊は銃を持って男を追う……。
本来の『鰍沢』とは正反対の展開だが、談笑版のほうがより人情噺らしく、胸に迫る。
この談笑が古典の「外伝」を創作する落語会が世田谷区の成城ホールで不定期開催されている。題して「談笑『落語外伝』名作落語~それまで・そのあと・スピンオフ~」。2月20日に行なわれた第4回のテーマは『らくだ』で、談笑は前半に『らくだ』を演じ、後半で『らくだ後日談』を披露した。ちなみにこの公演、本来は1月22日開催だったが、当日朝から東京は大雪で交通網に大きな影響が予想されたため、午後の早い段階で延期を決定したものだ。
談笑の『らくだ』自体も改作で、ラストに「こう来たか!」と唸らされる見事なオチが用意されている。だがこの日彼が演じた『らくだ』にはそれがなく、オーソドックスに「魚屋へ行ってマグロのブツ持ってこい! 寄越すの寄越さないの言ったら、かんかんのうを踊らせろ」でサゲた。後半の「後日談」へとスムーズに繋げるためだ。
らくだの弔いが済んで、翌日。「らくだの母」と名乗る上品な女性が長屋に現われ、らくだは実は「相模屋金兵衛」という茶道具を扱う大店の主人だったのだと言う。母の「思いやりのある子でした」という発言に、乱暴者のらくだに手を焼いていた長屋の皆は驚くが、母の話を聞いていくと、漬物屋で悪態をついたり屑屋を虐めたりといった、らくだの一見理不尽な行動の数々にも、すべて真っ当な理由があったのだと判明。さらに大家がやって来ると、らくだがこの長屋に来た「本当の理由」が明かされて……。
談笑ならではのロジックで構築された驚愕の真実。「らくだ」という渾名の由来も解明された『らくだ後日談』、この日限りに終わらせず、磨き上げての再演を期待したい。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年4月20日号
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
春風亭昇也と立川笑二 オンライン配信で楽しむ二ツ目の才能
NEWSポストセブン / 2021年3月5日 11時5分
-
原点は桂枝雀師匠の「上燗屋」あの噺と出合わなかったら…【桂宮治 大いに語る】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2021年2月25日 9時26分
-
落語ファンだから楽しめる仕掛けが随所にある作家・愛川晶のミステリ
NEWSポストセブン / 2021年2月24日 16時5分
-
談志師匠から今度は「上納金」60万円催促の電話がかかり…【ダンカンの笑撃回顧録】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2021年2月21日 9時26分
-
立川談春 意外な「お友達」の面々と「いま聴きたい噺」を堪能
NEWSポストセブン / 2021年2月14日 16時5分
ランキング
-
1西野亮廣が吉本興業を辞めた本当の理由を告白 吉本が抱える人事の問題点とは
wezzy / 2021年3月7日 10時0分
-
2「ハロプロ最強美少女」上國料萌衣に期待される「起爆剤」役
NEWSポストセブン / 2021年3月7日 16時5分
-
3ついに朝ドラヒロインに!川栄李奈「おバカキャラ」はウソだった(1)評判は「頭のキレる女優」
アサ芸プラス / 2021年3月7日 5時57分
-
4「新しい地図」、チョコプラの名前分からず 草なぎ「ハヤシさん、ウエダさん…」、稲垣「カジタさん」
スポニチアネックス / 2021年3月7日 17時22分
-
5“ゴールデンMC”の西川貴教と“格付けタレントの”GACKT…ふたりの決定的な「違い」とは?
文春オンライン / 2021年3月7日 11時0分