樹木希林 気づいたら転職しなかったのよね

NEWSポストセブン / 2018年7月8日 7時0分

写真

「夢千代日記」の思い出を語る

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、出演映画『万引き家族』『モリのいる場所』が公開中の女優・樹木希林が、ドラマ『寺内貫太郎一家』で演じた老婆役のこと、『夢千代日記』出演の思い出について語った言葉をお届けする。

 * * *
 一九七四年、向田邦子脚本・久世光彦演出のテレビドラマ『寺内貫太郎一家』で樹木希林はまだ三十一歳にもかかわらず、一家の老婆役で出演している。

「あれは自分が楽したくて『婆さんならやる』って向田さんに言ったの。ようするに寝てりゃいいと思って。そうしたらとんでもなくて、年中いろんなところへ出入りするお婆ちゃんになっちゃった。

 でも、コミカルに演じるつもりはなくて、一生懸命やっただけです。この婆さんはどういう物を食べたくて、どういう風に生きていたいのかをただやっただけ。ふざければお客は白けるから。お客は冷静に観ているから。まして、テレビって何か仕事しながらとか家庭の用事をしながらとかで観ているわけだから、そこへヒュッと目を留まらせるためには、ふざけていては見てもらえないわね」

 毎回のように激しい乱闘が繰り広げられ、アクションの多いホームドラマとなった。

「浅田美代子でも誰でも、『階段を上からちゃんと落ちてくれ』って久世さんに言われてましたね。『落ちる芝居をするな。落ちようとして落ちなくていい。慌てる流れの中で落ちてくれ。本当に痛がった時にお客は笑うんだ』と。ですからみんな随分あちこちと痛めてました。

 西城秀樹君なんか腕の骨を折っちゃったからね。腕折って撮影ストップになって医者行って、次の次の日ぐらいにギプスはめてきて。庭に転がり落ちた息子が這い上がってきたら、ギプスをはめてる──って変な話なんだけど、それを続けて見せちゃってました。

 でも、最後の方は段取りになっちゃって。監督は本気を求めたんだけど、みんな加減が分かるようになったの。そうするとぜんぜん面白くないのよね。段取りじゃなく、思いがけない動きがないとね」

 一九八一年、早坂暁脚本、深町幸男演出のテレビドラマ『夢千代日記』では吉永小百合扮する主人公の同僚の温泉芸者を演じた。

「早坂さんの脚本が一枚ずつしか上がってこなくて次どうなるか分からないのを深町さんが上手く演出してたわね。ポッと遠景で雪の中から湯気が出るような景色を撮ったり、町の灯りを撮ったり。

 そういうところから役者は役を読み取っていくものですよね。新宿あたりではホステスやれない人たちが吹きだまりに肩寄せ合って生きているという感じを出しました。あそこでしか生きられない人間。『芸者は芸だよね』とか一端のこと言いながら、自分は『貝殻節』しかできないような三流芸者。それでも、見栄とか張りとかあるのよね。そういう人間がいることを学ばせてもらいました」

 大病を患い、七十を超えても、今なお精力的に映画出演を続けている。

「仕事は来た順で考えています。スケジュール的にやれるか、やれないか。それだけです。

 気づいたら転職しなかったのよね。それは仕事が途切れなかったから。主体性がなくて役も何も選ばないできたから、なし崩しで続いたんだと思う」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

■撮影/五十嵐美弥

※週刊ポスト2018年7月13日号

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング